スポーツ性貧血とは?その原因と対策
前回は、「良質なタンパク質について!」を説明をしました。今回は、「スポーツ性貧血とは?その原因と対策について!」を解説をしていきます。
そんなに動いていないのに、ものすごく息切れしたり、めまいやふらつきを感じたことはございませんか?もしかしたらそれは「スポーツ性貧血」かもしれません。アスリートは普通の人よりも貧血を起こしやすく、貧血になると競技パフォーマンスが著しく低下してしまいます。スポーツの仕事の現場で選手がよくこの症状を訴えているところを目にします。
今回はアスリートに起きやすいスポーツ性貧血の症状・原因と、食事でできる対策方法まで解説します!
スポーツ性貧血とは?
スポーツ性貧血を知ろう
貧血とは血液中の赤血球濃度やヘモグロビン濃度が減少した状態のことをいい、「スポーツ性貧血」とはその名の通り、スポーツが原因となって引き起こされる貧血のことです。(「運動性貧血」ともいいます)
スポーツ選手にとって貧血は、競技におけるパフォーマンス低下の原因となるだけでなく、将来にわたって健康を害する危険性がある病気です。
症状としては以下のようなことが起こります。
スポーツ性貧血の症状
・頭痛
・めまい
・眠気
ヘモグロビンは赤血球の中に含まれているタンパク質の1種で、酸素や二酸化炭素を運搬する働きがあります。赤血球やヘモグロビンが少なくなると、身体は呼吸で取り込んだ酸素を利用できなくなり低酸素状態となります。
そして身体が低酸素状態になると、脳に十分に酸素が行き渡らなくなるため、
頭痛やめまい・立ちくらみ・ふらつきなどの症状が起き、全身症状では眠気や倦怠感などが起きることがあります。
持久力の低下・疲労感
低酸素状態を改善するために、身体は血流を速くして酸素を多く運ぼうとします。すると軽い運動でも心肺機能に負担がかかり、心拍数が多くなって動悸や息切れが激しくなり、持久力の低下や疲労感を引き起こします。
このためマラソンや自転車競技、トライアスロン、水泳長距離などの持久力が要求されるスポーツでは特に、パフォーマンスが著しく低下する要因となります。また、慢性的な疲労感や頭痛から、集中力の低下につながったり、トレーニングや競技に対するモチベーションの低下の要因ともなるでしょう。
・舌炎や爪の変形
鉄分の不足が長期にわたって続いた場合には、舌炎や口角炎・爪の変形(さじ状爪)などの症状もみられます。
・結膜蒼白
血の気が引いたように顔が青白くなったり、まぶたの裏側の結膜が白っぽくみられます。
・異味症・食欲不振
そのほかの症状として、土(土食症)や氷(氷食症)などの食品以外のもの好んで食べる異味症という異常行動がみられることもあります。理由ははっきりしていませんが、貧血による自律神経の乱れなどが挙げられています。
また長期的な貧血は胃腸の不調をきたすことが知られており、食べ物を飲み込むのが難しくなったり、食欲不振になったりすることにより、大きく体調を崩す要因ともなります。
スポーツ性貧血になる原因
スポーツ性貧血の原因は大きく分けて次の3つがあります。
原因① 鉄欠乏性貧血
鉄分の不足によって引き起こされる鉄欠乏性貧血は、アスリートにとって最発症しやすい貧血です。ヘモグロビンは鉄を含む「ヘム」という色素と、タンパク質を含む「グロビン」が結合してできており、これが赤血球の中で酸素と結合して全身に運ばれます。
したがって鉄分やタンパク質が不足すると、血中のヘモグロビン量が低下し、酸素を運ぶことができなくなってしまいます。
アスリートが鉄欠乏性貧血になりやすいのは、以下の原因が挙げられます。
・アスリートは活動量が多い分酸素を多く運搬する必要があり、それに伴い鉄分も多く必要となるため
・運動中の汗によって、鉄分が失われてしまうため
・消費される量に見合う鉄分やタンパク質を食事から摂取できていないため
激しい運動を行っているアスリートほど、鉄欠乏性貧血になりやすいということになります。アマチュアスポーツ選手であっても、マラソンや自転車競技などの持久系競技は運動量が多いため注意しなければなりません。
プロテインは食品中の糖質や脂質を除去しており、摂取カロリーを抑えながら効率的にたんぱく質をとることができますので、アスリートや健康のためにトレーニングをしている方の身体作りに役立ちます。
原因② 溶血性貧血
溶血性貧血とは血液中の赤血球が、物理的に破壊されて起こる貧血のこと。スポーツ選手の場合は、足の裏に強い衝撃がかかることで溶血が起こる可能性があり、特に次のような競技では溶血性貧血になりやすいです。
・硬いアスファルトの上を長時間走るマラソン選手
・跳躍を繰り返すバレーボール選手
・裸足で強く踏み込んだりする剣道選手や空手選手
・スパイクを履くスポーツ
原因③ 希釈性貧血
希釈性貧血とは、血液中の水分量が増加することで、相対的に赤血球やヘモグロビンの濃度が低下する状態の貧血です。
活動量の多いスポーツ選手は、心肺機能の強化や筋肉量の増加に伴い、血液中の水分量(血漿量)が増加することがあります。これは血液の粘性を低下させ血流をよくすることで、多くの酸素を運べるようにし、高い強度の運動に適応できるようになった結果なのです。
希釈性貧血の場合は赤血球やヘモグロビンの検査値が低くなりますが、赤血球やヘモグロビンの数が減っているわけではありませんのでめまいなどの貧血症状は現れません。あくまで検査の見かけ上の貧血ですので、特に対策をする必要はないでしょう。
[page_break:アスリートの貧血対処7ヶ条]アスリートの貧血対処7ヶ条
①食事で適切に鉄分を摂取
質・量ともにしっかりとした食事で、1日あたり15~18mgの鉄分を摂ります。普段から鉄分の多い食品を積極的に食べましょう。
②鉄分の摂りすぎに注意
鉄分を摂りすぎると、体に害になることがあります。1日あたり鉄分の耐用上限量は男性50mg、女性40mgです。鉄分サプリメントを摂りすぎると、
この量を超えますので、注意しましょう。
③定期的な血液検査で状態を確認
年に3~4回は血液検査を受けて、自分のヘモグロビン、鉄、フェリチンの値を知っておきましょう。フェリチンは身体に蓄えられた鉄分量を反映するタンパク質で、
鉄欠乏状態で最も早く低下する敏感な指標です。ヘモグロビン値は最後に低下しますので、貧血では体の鉄分量は極度に減っています。
④疲れやすい・動けないなどの症状は医師に相談
疲れやすくパフォーマンスが低下する時は、鉄欠乏状態や貧血かもしれません。早めに医師に相談しましょう。
⑤貧血の治療は医師と共に
鉄欠乏性貧血の治療の基本は飲み薬です。医師に処方してもらいます。ヘモグロビン値が正常に回復してからも3ヶ月間は続けましょう。
⑥治療とともに原因を検索
鉄欠乏性貧血には原因が必ずあります。治療を受けるだけでなく、消化器系、婦人科系、腎泌尿器系などの検査を受けましょう。
⑦安易な鉄剤注射は体調悪化の元
鉄剤注射は投与量が多くなりがちで、鉄が肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、内分泌臓器や中枢神経などに沈着し、機能障害を起こすことがあります。体調不良とかパフォーマンスが思い通りでない、といった理由で、鉄剤注射を受けることはもってのほかです。鉄剤投与が注射でなければならないのは、貧血が重症かつ緊急の場合や鉄剤の内服ができない場合です。
食事での予防・対策
治療には医師の指導が必要であることを前提として、ここでは普段の食生活でできる貧血の予防・対策をさらに掘り下げてご紹介いたします。
鉄分とタンパク質をしっかり摂取するヘモグロビンの材料である鉄分とタンパク質はしっかりとることが大切です。特に、鉄分は「アスリートの貧血対処7ヶ条」では1日15~18mgの摂取が必要とされており、スポーツ選手は一般人の2倍またはそれ以上の必要量になるという報告もあります。
本格的に競技をしているアスリートでなくとも、週に4~6日くらいの頻度で練習しているマラソン・自転車選手なども、運動量が多いためこれに近い量の鉄分が必要と考えて下さい。鉄分の多い食品を選ぶようにしましょう。
・鉄分の多い食べ物
鉄分はレバーや牛肉の赤身、かつおやマグロの刺身、貝類、大豆、小松菜やほうれん草
などの緑黄色野菜に多く含まれています。
・鉄分補給ができる飲み物
手軽に鉄分補給ができる飲み物としては、鉄分を添加した牛乳も市販されており、スーパーに並んでいます。
・ビタミンCやクエン酸をとる
鉄分には2種類あり、動物性食品に多く含まれているヘム鉄と、植物性食品に多く含まれている非ヘム鉄とがあります。ヘム鉄と非ヘム鉄では吸収率が異なり、ヘム鉄の吸収率は15~35%なのに対し、非ヘム鉄の吸収率は2~5%程度しかないという報告があります。ただしこの非ヘム鉄の吸収率は、一緒に摂取する栄養素によって大きく影響を受けます。
・ビタミンCやクエン酸は非ヘム鉄とキレート(結合して安定化)する作用があり、鉄分の吸収率を高めてくれます。ビタミンCはキャベツやピーマン・ブロッコリーなどの野菜に多く含まれています。また柑橘類の果物ならビタミンCとクエン酸の両方をとることができますので、みかんやグレープフルーツは食後のデザートにおすすめです。
・ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸をとる
ビタミンB6やビタミンB12・葉酸は体内で赤血球の合成を助ける働きがあり、貧血と深い関わりのあるビタミンです。ビタミンB6は大豆や卵などに、ビタミンB12は動物性食品全般に、葉酸はレバーや緑黄色野菜などに、それぞれ幅広い食品に含まれています。
これらの成分は普通に食事をとっていればあまり不足することはありませんが、胃炎などで消化不良になっている方や、肉類を全くとらないベジタリアンの方は不足しやすいので、サプリメントで補うなどして注意して下さい。
緑茶やコーヒーは食事中に飲まない反対に、コーヒーや緑茶・紅茶に含まれるタンニンは、非ヘム鉄と結合して消化管での吸収を阻害する作用があります。
そのため、食事中にこれらの飲料を飲むのは避けるようにして下さい。食事中には水を飲むようにして、お茶やコーヒーが飲みたい場合には、食後30分くらい空けてから飲むようにしましょう。
•スポーツ性貧血とは、スポーツが原因となって引き起こされる貧血のこと
•貧血の状態では身体が低酸素状態となり、頭痛やめまいを感じるようになる
•低酸素状態の体では、心拍数が多くなり動悸や息切れがひどくなり、ひいては持久力の低下や疲労感の原因となる
•そのほか、慢性化すると舌炎や爪の変形、食欲不振にもつながり、大きく体調を崩すおそれがある
•症状に心当たりがある場合には、病院で診断・血液検査を受け、ヘモグロビンやフェリチンの濃度を診てもらおう
•スポーツ性貧血の原因は大きく分けて3つあり、鉄欠乏性貧血・溶血性貧血・希釈性貧血がある
•鉄欠乏性貧血はアスリートが最も発症しやすい貧血で、運動により多くの鉄分が消費されることや、食事での鉄分摂取量が足りないことが原因である
•溶血性貧血は物理的な衝撃で赤血球が破壊されて起こる貧血で、マラソンランナーなど足の裏に衝撃を受ける競技の選手に多い
•希釈性貧血は血液中の水分量が増加することで、赤血球やヘモグロビンの濃度が薄まる貧血で、検査の見かけ上の貧血なので特に対策をとる必要はない
•ヘモグロビンの材料となる鉄分やタンパク質をしっかりとる
•鉄分の吸収を高めるビタミンCやクエン酸をしっかりとる
•ビタミンB6やビタミンB12・葉酸は赤血球の合成を助ける栄養素で、消化器疾患の方やベジタリアンの方は不足しないよう注意する
•緑茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄分の吸収を妨げるため、食前食後の摂取は避ける
文=久保 翔平 (カラダツクル株式会社代表取締役)