3年生座談会 県立三本松高等学校(香川)「甲子園優勝へあと3つ」までの記録帳【後編】
2017夏の甲子園、四国勢で最高成績となるベスト8入りを果たした香川県立三本松高等学校。夏3回目、通算4回目の聖地で下関国際(山口)相手に初勝利をあげると(試合記事)、二松学舍大附(東東京)にも快勝(試合記事)。準々決勝・東海大菅生(西東京)戦(試合記事)で力尽きたものの、彼らの外連味なき戦いは四国のみならず全国公立校に勇気を与えた。
ただ、彼ら自身の最終目標は「あと3勝=甲子園制覇」だったことは意外にも知られていない。では、三本松はいかにして甲子園制覇を目指したのか?その記録帳を3年生選手5人、女子マネージャー1人の対談で再現していきたい。後編では甲子園での3試合、そしてこれからの意気込みについて語っていただきます。
<メンバー>
渡邉 裕貴(わたなべ・ゆうき)前主将・捕手・168センチ70キロ・右投右打・東かがわリトルシニア出身
川﨑 愛弥(かわさき・まなや)前副主将・右翼手・180センチ81キロ・右投左打・東かがわ市立引田中出身
佐藤 圭悟(さとう・けいご)投手・右投左打・174センチ68キロ・東かがわリトルシニア出身
黒田 一成(くろだ・いっせい)遊撃手・173センチ66キロ・右投右打・東かがわ市立白鳥中出身
盛田 海心(もりた・かいしん)一塁手・182センチ67キロ・右投左打・さぬき市立長尾中出身
川田 奈菜(かわだ・なな)マネージャー・東かがわ市立引田中出身
皆さんの声援を感じた甲子園
佐藤 圭悟(三本松)
――決勝戦では丸亀城西を7対1で下し、全国制覇への場所、甲子園へ向かうことになりました。地元の反響もすごかったのでは?
川﨑:僕は自転車で学校まで通っているのですが、いままでは「おはようございます」とあいさつをしたとき「おはようございます」と返ってくる返事が「おめでとう、がんばってね」と返ってくるようになりました。「これはやらなくてはいけない」と改めて思いました。
渡邉:僕も東かがわリトルシニアへあいさつに行ったとき、中学生からも「おめでとう、がんばってください」と言ってもらいました。僕は中学生・小学生のみなさんにとって「こんな選手になりたい」と思って頂ける選手を目指しているので、少しはそこに近づけたうれしさがありました。
――甲子園3試合では自分たちのことも相手のことも把握できているように見えました。改めて感想を聞かせてください。
黒田:ホテルと自宅との違いに順応することがポイントでしたが、そこは徐々に慣れていきました。
盛田:(チーム外部トレーナーの)森安 昭斗さんに教えて頂いた身体の動かし方や柔軟性に取り組んできたことがここで活きました。
渡邉:僕は捕手として相手打者の特徴は見ていましたが、実はそんなに細かくは研究はしていませんでした。ある程度情報だけを入れて、試合には臨みました。
下関国際戦のホームランは自分のスイングだけすることを決めて、振り切りました。あとで見たら泳いでいる感じだったんですが。6回の右前適時打はその部分ではよかったと思います。
川田:私の目からは、楽しむ部分とスイングに行ったりする部分のメリハリができていたように見えました。
――2試合目・3回戦の二松学舎大附戦(5対2)は特にそれがよくできたと思います。
盛田:先発の市川(睦・3年)くんはこの試合でスライダーをはじめて投げて、左打者は全くタイミングが合わなかった。右打者のおかげです。
――この試合、佐藤選手は87球完投だけでなく、5回表に先制スクイズも決めましたね。
佐藤:あれは……。実はベンチから見えた角度から。三塁ランナーの大久保(祥吾・2年)と僕とでは違うサインに見えていたんです(苦笑)。実際はスクイズだったんですが。本当にラッキーでした。
渡邉:二松学舎大附は甘い球をしっかり捉えているイメージがあったので、インコースで詰まらせることを考えました。佐藤がイメージ通り投げてくれました。
川﨑:この甲子園では会話がしづらいので、(中堅手の)浦上(統也・3年)とベンチに戻るたびに確認しあったり、ジェスチャーを入れたりすることは心掛けました。そして、甲子園の芝生は本当に奇麗でした!
――あと3つ勝てば全国制覇。しかし、東海大菅生戦は残念な結果になってしまいました。
川﨑:皆さんからは「甲子園ベスト8、すごいね」と言って頂くんですが、1年間、甲子園で優勝することだけを考えてきたので、正直悔しさだけが残っています。自分たちの意識の高さでは全国制覇はほど遠かったと思います。
盛田:松本(健吾・3年)くんはストレートにも伸びがあったし、これまで僕にはアウトコース攻めが多かったところ、彼はインコースをどんどん攻めてきました。ストレートからスライダーといった同じコースで振ってくるボールを投げてきました。
黒田:長打の打球はスイングスピードも違ったし、打者のオーラも違いました。
佐藤:力のなさがはっきり出た試合でした。初回、2番打者(松井 淳・3年)に初見のチェンジアップを右前に打たれ、次(小玉 佳吾・3年)にホームランされたところでも、少し高めに入ったボールを逃してくれなかったです。
渡邉:東海大菅生の打者陣はミスショットがなく、僕らは松本くんのストレートに押されてしまった感があります。僕らはこの一年間、取り組み方もよかったと思いますし、内容も濃い練習もできましたが、向こうは入学してから、入学する前から「甲子園で勝つ」練習をやってきている。その一年半の差が出たと僕は思いました。
――女子マネジャーの川田さんは違った視点でチームをどう見ていましたか?
川田:甲子園制覇はベンチ入り選手はもちろん、チームのみんなで目指していたことなので、負けたのは悔しかったです。でも、この甲子園ではいっぱい「公立校の星だから、がんばって」と声をかけてもらいましたし、宿舎にも東かがわ市特産の手袋に寄せ書きをしたものを届けて頂きました。
――最後まで声援を頂けた甲子園でしたね。
一同:うなずく。
次なる場所で、目標を達成するために
三本松3年生、左から川田 那菜・川崎 愛弥・佐藤 圭悟・渡邉 裕貴・盛田 海心・黒田 一成
――それでは最後にこれまでの高校野球生活を振り返り、これからに向かっての意気込みを聴かせてください。では、川田さんから。
川田:私は中学時代に吹奏楽をやっていたので、マネージャーになったのもいわば消去法だったんです。最初はマイナスのことしか考えていなかったんですが、そこから人を尊重することの大切さや、人のためになにをするべきかを三本松野球部に教えてもらいました。航空関係の専門学校に進んでも、マネジャーを通して学んだことを活かしていきます。
佐藤:一生野球に携わる目標を自分はずっと持っていますが、そのためには人以上の努力をしなければいけないと思います。三本松ではそのために何をすべきかを自分で考えて学んだので、大学に行って活躍するために、この後も身体を鍛えていきたいです。
黒田:僕は小中高と野球をしてきた中、野球を始めた時の楽しさを忘れず努力してきました。これからの道でも努力を続けていきたいと思います。
盛田:僕は右膝じん帯断裂をしなかったら、大学・プロを目指していたと思います。けがをしたことは後悔はしています。でも、そこで鍛えた忍耐力や続けることで報われることを野球から学びました。次の社会に就職で出たときはそこを活かして地域の皆さんに貢献できるように努力していきたいと思います。
川﨑:9年間僕は野球をやってきましたが、甲子園が終わって改めていろんな人に支えてもらったことを実感しました。これからは人のためになれることをしたいと思ったので、僕は消防士を目指します。
渡邉:僕は三本松高校に入って日下先生や周りの皆さんから野球の技術だけでなく、教え方・考え方を改めることができました。ですから、大学に行って教師になって、いずれは甲子園に指導者としていけたらと思いますし、子どもたちの将来を支えて、可能性を広げてあげたいです。
(構成/寺下 友徳)
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