Column

荒川リトルシニア(東京)自主性と感謝の気持ちを学び、人として成長させる

2018.05.31

 広島東洋カープの若き4番打者、鈴木誠也二松学舎大附時代、甲子園出場の経験こそないものの、その溢れる才能でプロの門を叩いた。そんな鈴木は、中学時代は東京都の荒川リトルシニアに所属していた。荒川リトルシニアは、東東京で第85回選抜高等学校野球大会に出場を果たした当時の安田学園では、荒川リトルシニア出身の選手が5人もベンチ入りを果たしている。
 他にも、昨年の夏の甲子園を制した花咲徳栄倉持 賢太をはじめ、多くの選手を有名校に輩出している。そんな荒川リトルシニアは一体どんなチームなのか。

環境を整える難しさ

荒川リトルシニア(東京)自主性と感謝の気持ちを学び、人として成長させる | 高校野球ドットコム
荒川リトルシニアの選手たち

 荒川リトルシニアの練習が行われていたグラウンドは、江戸川沿いにある河川敷のグラウンドだった。ここで土日を使って練習や試合を行っている。しかし、川沿いのグラウンドということで、時にある問題が浮かんでくる。
「台風なんかが来ると、川の水が増水しちゃって内野の土が全部持っていかれちゃうんだよ。だから、新しい土をいれないといけないから、その時は苦労するよ。」

 こう話すのはチームの事務局長である石墳 方さんだ。しかしこういった環境は、何も荒川リトルシニアだけが抱えている問題ではない。都内に拠点があるチームになると、グラウンド設備が整っていない環境になってしまうことも多い。そうなると、荒川リトルシニアのように河川敷を利用するチームは増える。つまり、この問題はどのチームにも共通しているのである。

 土日は河川敷を利用して練習している荒川リトルシニア。その練習日程に加え、平日の火曜日と木曜日の夜にも練習を行っているが、ここでも環境の問題が発生する。石墳事務局長いわく、「球場はいつも抽選次第なんだよ。たまたま空いていれば使えるんだけど、必ず球場が使える保障がないんだ。だから、高校のグラウンドも借りるようにして何とか確保しようと努力しているんだ。」

 専用のグラウンドをもっていないため、平日の練習をするのにも一苦労している。しかも、借りる球場はあまり大きくないため、ティーバッティングや投内連携など基礎的なことしか練習ができないそうだ。

 また少し前は、平日の夜に石墳事務局長が働いていた職場の近くで総勢30~40名ほどの選手の素振りをして、その様子を見るなどして工夫していた。普通であればその人数で一斉に素振りをしていれば、地域からは迷惑に思われてしまうだろう。しかし、そこは下町ならではの人情で許されていた。

 だが、現在は様々な事情でその練習もできなくなってしまった。選手も学校などがあって練習に行けなかったり、最近では公園で野球をすることが禁止になっていたりとなかなか練習することができないようだ。このように、練習環境を整えることが困難になっているのが、荒川リトルシニアにとって問題になっている。しかし、その中でも食事などのできる最大限のサポートをしてくれる親をはじめ、コーチ陣に対して選手たちは感謝していることだろう。そしてこの感謝という言葉が、実はチーム作りにおけるキーワードになっている。

[page_break:全員野球で磨く人間力]

全員野球で磨く人間力

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荒川リトルシニア

 何とかして練習時間を確保している荒川リトルシニア。次に選手の育成方針などについて、1、2年生チームで指揮をとっている尾池 勉監督にお話を聞いた。

 尾池監督が就任して1年半になるが、この期間で城東ブロックの1年生大会で準優勝や、1年生の東京イーストカップで優勝という成績を収めている。そんなチームの選手への指導は、人間力を大切にしている。
 「野球をやる前に、まずは感謝する気持ちと人間力というものを大事に考えています。そこからさらに、選手たちの自主性やコミュニケーションをとることを大事にして全員野球を心掛けています。」

 取材当日は試合を行っていたのだが、ベンチワークという言葉がよく聞こえた。この言葉がしきりに使われるのは、尾池監督の意識の表れだったのだ。
「野球は9人しか試合に出られません。ベンチの選手が出ている選手に力を与えてやらないといけないですよね。だからこそ、全員野球を心掛けています。」

 こういった発想からも監督の人間力がいかに高いのかがうかがえる。さらに、「個の力をいかに1つの集にしてチームを底上げするか。飛び抜けた選手がいなくても勝てるようなチームを作りたい。これを考えています。」

 尾池監督は自身の考えを実現するために、選手との意思の疎通も感謝の気持ちと同様に大切にしている。そのための手段の1つとして用いているのが、野球ノートである。
 野球ノートの提出は、基本として土日になっている。内容としては、平日に取り組んだ自主練習の内容が中心になっている。それに対してアドバイスなどのコメントを書き添えることで、選手たちとコミュニケーションを取っているそうだ。ただ「コミュニケーションをとることだけが野球ノートの役目ではない」と尾池監督は話す。

 「習慣性をつけたいと思っています。野球というのは、基本を忠実に反復することで上手くなっていくものです。考える力というものも同じだと思っています。日々やることで意識に変化が生まれてくるんです。その変化に気づきたい、という想いもあって取り組んでいます。」

 こういった1つ1つの取り組みの中にも、尾池監督の考えが随所に出ていることが、今までのお話からも見えてきた。では実際にどんなことに気をつけて技術的な指導をしているのか。そのことについてもお話を伺った。

[page_break:夢をもってオフシーズンのトレーニングを取り組んだ冬]

夢をもってオフシーズンのトレーニングを取り組んだ冬

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荒川リトルシニアの尾池 勉監督

 「成長期に入る時期なので、まずは選手たちの痛いところを見つけられるかです。僕はキャッチャー出身ですので、高校時代とかは常にそういったことに注意を払っていました。子どもたちって試合に出たいとか、ケガしちゃいけないと思うからこそ、嘘をつくんですよ。特にやる気がある子は。それをいかに見つけられるか、ということですね。」

 身体の変化が著しい中学生。こういった指導者の存在は嬉しい限りだろう。ただ、自らケガしていると申告ができないことも多いはず。そんな選手たちのためにも、「ケガです、と選手から言いだす勇気を出せるように指導しています。ケガして無理すると、先の自分にもっと大きくなって返ってくるからこそ、環境に気をつけています。そのためには信頼関係が大事になってくるので、その辺りにも注意しています。」と尾池監督は話してくださった。

 細かな部分まで聞いてみると、大事なことはとにかく基礎の繰り返し。その基礎があるからこそ逆シングルなどの応用に取り組むべきで、とにかく基礎を染み込ませることが大事と考えられていた。

 そして、ここでも人間力を磨くポイントがあった。それは説明の時は、選手が考えられるような質問を心掛けているそうだ。「考えを押し付けてしまうと、右から左に流して考えない。選手から考えたうえで返答をもらえるようにしたい。選手には自主的に考えて改善させたいため、選手から声を発せられるような質問を常に考えています」

 自主性や感謝の気持ち。野球ノートによるコミュニケーションなど、尾池監督による仕掛けで人としても成長していく荒川リトルシニアの選手たち。そんな選手の先輩で、憧れであろう鈴木選手など、先輩方から影響されたこと。そしてオフシーズンの練習のテーマについても伺うと、夢という言葉が出てきた。

 WBC代表入り、そしてチーム連覇に貢献し日本を代表する選手に成長した広島東洋カープ鈴木 誠也をはじめ、多くのOBが甲子園に出ることがチームにとっては役に立っている。
「1年生にプロ野球選手になりたいか、と聞くと全員恥ずかし気なく手をあげますよ。私は選手に夢を持たせたいんですよ。そう思うとプラスです。それだけでなく、夢を達成するためのヒントがわかることでプロセスが明確になっていったと思います。」

 そしてオフシーズン。テーマとして掲げたのは、体力づくりであった。特に、野球で大事な体幹・下半身のトレーニングを重点的にやることを考えているそうだ。
「夏を戦うためには、この時期にそういった細かな部分を練習が大事になってきます。それに加えて、出来る範囲で限界に挑むことで基礎体力や基礎技術や精神的な部分も一緒に鍛えられたらと思っています。」
 しかし、ただ力をつけるのではなく、ケガの防止のためにもシーズンではなかなか取り組めないストレッチも並行して行っている。

 選手の野球の技術だけでなく人間力も磨いている荒川リトルシニア。その陰には、選手のことを想う首脳陣や保護者の支えがある。今後、荒川リトルシニアの戦いぶりや、出身選手が高校の舞台でどんな活躍をするのか。楽しみだ。

(文・写真=編集部)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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