Column

侍ジャパンのバッテリーの配球から初球の入り方を学ぼう!

2017.03.23

 WBC準決勝で惜しくも敗退してしまった侍ジャパン。今回はWBCをテーマに高校球児に参考になる理論を伝えていく。WBC二次ラウンドのイスラエル戦から振り返り、投手、捕手も頭を悩ませる立ち上がりの「入り球」にフォーカスしてレポートする。

曲者・イスラエル打線に対し、侍ジャパンバッテリーはどう攻めたのか?

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小林 誠司選手(侍ジャパン)

 バッターを打ち取る上でバッテリーにとって難しいことの1つが初球の入り方。当然、有利なカウントに持っていきたいのでストライクが欲しいが、相手バッターのスイングやボールに対する反応を見てから投げることはできないだけに慎重さも必要になる。しかも、それが相手の情報が十分ではない国際大会となれば、なおさらだろう。侍ジャパンが準決勝進出を決めた第二次ラウンドのイスラエル戦に先発して5回被安打1、無失点と好投した千賀 滉大(ソフトバンク)を女房役の小林 誠司(巨人)はどう配球したのか。前の打席を参考にすることもできない。

 千賀は150㎞/h超のストレートと「お化けフォーク」と称される落差の大きな球が武器で、持ち球はほかにもキレのあるスライダーを投げるものの、カーブは1試合平均で3、4球といったところ。基本は3つという少ない球種で配球を組み立てるピッチャーだ。

 どんなピッチャーでも緊張感が高まるであろう試合の第1球。千賀も硬さがあったのか、投球練習では狙ったところには思うように投げられていなかった。イスラエルの1番フルドは膝を深めに曲げて小さく構える左バッターで長打が多そうなタイプには見えない。そんな中、小林の出したサインは外角へのストレートだった。小林はピッチャーの良さを優先するタイプのキャッチャーと評される。低めに外れてボールとなったが、力で押せるだけの球威があり、千賀本人も自信のある球をまずは選んだのだろう。

 結局、フルドは2球目の甘く入ったストレートをしっかり踏み込んで打ってライト前ヒット。いきなりランナーを背負ったが、続くスイッチヒッターの2番ケリーはショートゴロ併殺に打ち取る。ホームベースから離れて立つバッターで、内角が苦手だからこそそうしている可能性もあったが引っ張られてランナーを進められることを嫌ったのか、バッターの様子を見たいという意味合いが大きかったのか、初球の選択は外のスライダー。内に外れるボールとなったものの、2球目の外角ストレートを打たせて難を逃れている。

 3番のデービスはメジャー7年間で81本塁打を打った実績を誇る左の強打者。今大会もそこまで13打数7安打と当たっていた。しかし小林は臆せずインコースのストレートを要求。真ん中寄りの高めのボールとなったが、早い段階で内角を意識させる狙いがあったのではないか。小林は次のスライダーも内角寄りに構えている。アウトコースでのストライクとなったが、次球のフォーク空振りを挟んで、4球目は千賀が1度首を振った後の内角ストレートで合致。ファールとなるが、しっかりコースに投げ切れたことで、6球目の外のフォークでの空振り三振に繋がった。加えて言えば、デービスの2打席目は初球から変化球で外を攻め続けている。同じコースばかりでは怖さもあるが、それも1打席目に布石が打てていたからこそできたのだと思う。最後の6球目だけインコースにストレートを要求し、実際には外寄りの球になったがデービスは打ち損じてレフトフライ。初回は3人で終えた。

[page_break:侍ジャパンバッテリーが素晴らしかったのは、実際の対戦から攻略法を感じ取ったこと]

侍ジャパンバッテリーが素晴らしかったのは、実際の対戦から攻略法を感じ取ったこと

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千賀 滉大選手(侍ジャパン)

 2回は4番のフレイマンから。身長2メートル3センチの右の長距離砲で、1次ラウンドで1本ホームランを放ち、2次ラウンドのオランダ戦でも右中間スタンドに叩きこんでいる。ここでも小林の入り球のサインは内角のストレート。千賀もきっちりコースに投げ込み、2球目も内のストレートを続けた。球はやや中に入ったが長い腕をたたんで打ったフレイマンの当たりは詰まり気味のライトフライ。警戒すべき3、4番の頭にはインサイドの球の残像が植えつけられたはずだ。そうなれば次の打席以降でリードがしやすくなる。

 さらにバッテリーの餌まきは続く。5番ボレンスタイン、6番ラバーンウェイの初球に、普段はあまり投げないカーブを使っている。意表を突く入り方、緩急をつける。もちろん、その打席で打ち取るためというのもあるだろうが、それだけではなかったように思う。イスラエルも千賀の真っすぐとフォークが素晴らしいことは調べ上げていたが、ボールになったとはいえ2人続けてカーブで入ってこられたことでイスラエルのバッターの頭の中には「カーブもある」とインプットされただろう。千賀がこの試合で投じた63球のうち、カーブはこの2球だけだったように見えた。実際に投げなくてもバッターからすれば球種は3つではなく4つという認識になる。そうなれば当然、狙い球が絞りにくくなる。失投すれば長打になりやすい球種だが、勇気を持って投げたことが、その後の対戦にも生きたのだと思う。

 ラバーンウェイを歩かせて二死一塁で迎えた7番ガイレンはバッティング練習で逆方向に意識して打つなど、コースに逆らわずに打ってきそうなバッター。長打を避けたい場面でもあり、原点と言われる外角低めのストレートで入ってガイレンの反応をうかがって、最後はサードへのファーストフライ。立ち上がりの2イニングを無失点で切り抜けると、波に乗った千賀は5回まで危なげないピッチングでチームの勝利に貢献した。

 1巡目は初球がボールになることが7度もあったが、2巡目は一転、ストライクやファールから入れるケースが多かった。千賀の緊張が緩和されたこともあるだろうが、事前に映像を見ているだけではわからない、実際に対戦したからこそわかるバッターの特徴などもつかめてストライクから入りやすくなったのだろう。それは当然、2番手以降のピッチャーにも役立つ。9回に登板した牧田 和久(西武)こそ制球が定まらずに3失点したが、千賀からバトンを受けた平野 佳寿(オリックス)、宮西 尚生(日本ハム)、秋吉 亮(ヤクルト)は無失点の好リレーを展開した。

 1巡目の入り球は小林の構えたミット通りに来た球は少なかったが、ときに基本に忠実に、ときに試合全体を見据えた狙いと成果があったように感じられた。

(取材・文/鷲崎 文彦)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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