Column

WBCオーストラリア代表の通訳経験者に聞くオーストラリアの野球事情

2017.03.21

 3月6日から開幕した第4回WBC。今回、「世界」をテーマに各国のエージェントやNPB・独立リーグのフロント、またMLBのスカウトに直撃インタビュー!前回の韓国編に続き、第2回は、野球レポーター・豊島 わかなさん(元グラゼニ女子)がWBCオーストラリア代表の通訳を務めた経験のある加藤 登志久氏を直撃!

 加藤氏は高校時代、埼玉工業大学深谷高等学校(現:正智深谷)野球部でプレー。高校卒業後はアメリカでホームステイを経験し、後に短期大学に入学。アメリカでの野球経験を持ち、2009年、2013年のワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)強化試合ではオーストラリアの通訳を務めた。オーストラリアは今大会の一ラウンドで、日本と同グループとなり、惜しくも敗退となったが、今後の活躍への期待もこめて、加藤氏にお話を伺いました!

チームのマネージャーのような存在でもある通訳というお仕事

WBCオーストラリア代表の通訳経験者に聞くオーストラリアの野球事情 | 高校野球ドットコム

オーストラリア代表の通訳を務めた加藤 登志久氏

豊島 わかな(以下、豊):さっそくですが、オーストラリア代表の通訳を務めたきっかけを教えてください!

加藤 登志久(以下、加):通訳をやらせていただいたのは、2009年、2013年の2回、大阪で行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の強化試合2試合で、オーストラリア代表の通訳をやらせていただきました。

 2013年はWBC1次ラウンド前の侍ジャパンとの強化試合だったのですが、オーストラリア代表が台湾ラウンドへ行く前の試合です。とても貴重な経験をさせていただいたと思います。

 きっかけは、長年オーストラリアに在住している日本人でデニー丸山さんっていう方がいるんですけど、その方は日本との橋渡しをしている方で、その方から通訳の話をいただいて、といった経緯があります。

豊:WBC代表の通訳という仕事のおもしろさだったり苦労話とかはありますか?

加:通訳といっても、チームのマネージャーみたいな存在でもあります。グランド内のことだけでなくグランド外のことも考えて、宿舎でのこととか、全てのいろいろな調整役を担当するのが通訳の仕事。選手の洗濯物も、集めてランドリー業者へ渡すっていうこともやります。

豊:そうなんですね!
WBC代表の通訳のお仕事って、選手たちの通訳だけではないんですね!

加:メディアに映る部分は会見のときとかが多いと思うんですけど、本当にいろいろやってます。自分は元々野球をやっていたのでわかる部分もあるんですが、基本的にいろんな部分にサービス精神がないとなかなか難しい仕事なんじゃないかなと思います。

 例えば、バスで移動中に渋滞にはまったので球場側や強化試合主催側に連絡とったり、今度は試合が終わって帰るときに渋滞はまったのでホテル着くの遅れますっていう連絡を入れたりします。ホテル着いてからインタビューとかっていうケースもあるので、そういう風に常に先のことを読みながら先方に連絡を入れたりとかをします。

 また、各チームには大体の広報担当の方とかもいるので、取材の話が来た時に担当の広報の方に連絡を取ってやりとりをしたり、あとは試合の主催側発信で記者会見を開くという話がくるので、チームの予定表を見ながら、このタイミングでできると思いますとか、チームのマネージャーさんと相談して決めたり。そういうのが私の仕事でした。通訳というより、どちらかというとマネージャーといいますか、マネージャーの補佐といいますか、そういう感じですね。

豊:かなり大変そうですが、やっているなかでの苦労話とかはありますか?

加:選手が1チーム総勢30名くらいいるので、グラウンド内にいるぶんには野球だけやっているんで全然問題ないんですけど、やっぱりホテル帰ってから自由時間になると、その間買い物行きたいんだけどどこがオススメ?とか、そういうリクエストが5人も6人も来ちゃうと、5、6箇所どこかへ連れて行くというのもあり得るので、そこは大変でした。

 自分の場合はホテルに帰ってからホワイトボードを用意して、なんでも相談掲示板みたいなのを設置していたので、そこでリクエストを集めて多数決で多いところに連れて行ったりしました。好奇心のある選手は個々でスマホのアプリとかで見た情報を頼りに自分で頑張って行ったりはしてましたけどね。

[page_break:オーストラリア代表がミズノ製品に感動!]

オーストラリア代表がミズノ製品に感動!

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左から加藤 登志久氏、豊島 わかなさん

豊:選手からはどんなリクエストが多かったんですか?

加:やっぱり野球選手なので、日本メーカーの野球道具に興味がある選手が多いです。WBCの強化試合は大阪で行われたので、大阪にあるミズノ直営店に連れて行ったり。初めて日本のミズノショップというもの見て選手たちも感動していました。

 オーストラリアにいたらなかなかそういう機会はないので、日本の野球に触れるというか、日本野球の道具に触れるというのは社会科見学のようで、そういうのも彼らは好きみたいです。

豊:日本人にとっては嬉しい話ですね!
そう聞くとマネージャーの1日って大変そうですが、どんなスケジュールなのでしょうか?

加:監督は朝6時くらいから散歩とかするので、ちょっとそれに付き合ったりもするので、1日はそこから始まり…。

 通訳兼マネージャーってなってきちゃうと本当に朝早くから遅くまでという感じです。試合が終わるのは22時くらいなので、それからホテルに戻って夕飯食べて、そのあと洗濯集めたり。割と裏方な仕事なので、朝早く夜遅くというのがなかなか大変なところではあります。

 でも、チームが勝ったりすると喜びがましますし、裏方はそういうところでやりがいを感じる仕事なんじゃないかなって思います。日本のプロ野球は年間145試合くらいあるので、裏方の仕事をしている方は、毎日そういう生活が続くんだなと思うと、本当に毎日大変なんだろうなって身に染みて感じました。

豊:かなり体力勝負ですね!

加:そうですね。女性でもそういう仕事をしたい方っているかもしれないですけど、実際はかなりの体力と忍耐がいる仕事だと思います。

 いろいろな間に立って、板挟みみたいになることも多いので、そういうところでどうにか自分で切り抜けて解決していく。この仕事は受けなきゃとか、うまく交わしたりもして、自分なりに調整しながらやっていけるといいですよね。いつもこういうのができてくるころにチームが解散になっちゃうんですけどね(笑)。またそういう機会があれば次回に活かしたいです。

オーストラリアの野球事情

豊:オーストラリア国内では、野球の普及率はどうですか?

加:一昔前にプロ野球リーグがあったようなんですけど、財政難で一回破綻したっていう経緯があります。日本の全日本野球連盟にあたるオーストラリア野球連盟(ABF)っていうのがあるんですけど、プロになればある程度連盟の方で旅費を出して大会行くこともできますが、実際問題、財政難なので代表チームといえども移動費用を工面するのが大変と聞きました。

 オーストラリアはサッカー、ラグビー、その下にバスケ、あとクリケットもすごくメジャーです。クリケットは昔からやる文化があるので、野球よりも伝統はあります。

 野球選手は、見た目が本当にこの人野球選手なのかなって思うような選手が多いのも面白いです。サーファー系の超ロン毛の人とかいたり、いろんな野球選手のスタイルがあるので、そこは見てておもしろいなって思います。

[page_break:オーストラリアの野球事情]
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左から豊島 わかなさん、加藤 登志久氏

豊:

オーストラリア野球の面白さってどういうところがポイントだなと思いますか?

加:基本やっぱり体が大きいので、やっている野球はどちらかというとパワー野球。ピッチャーであれば、速いボールが投げれる、バッターであればホームラン打つ。日本の野球と比べちゃうと、大雑把なところがあるかなと思うところがあるんですけど。

豊:パワー系の選手が多いということは、今回のWBCでも打者に期待が寄せられていたのではないでしょうか?

加:そうですね。まずバッターでは、ルーク・ヒューズ選手が打線の中心として期待が寄せられていました。彼はメジャーのツインズ、アスレチックスでプレーした経験もありますし、現在はオーストラリアの独立リーグ、アトランティックリーグ(ABL)でプレーしながら、日本のプロ野球のシーズンは海外に行ってみたり、旅人兼野球選手みたいな感じの選手なんです。笑

豊:面白いですね!結構みんな自由なんですか?

加:みんな野球だけで食べていける力がないんですよね。オーストラリアの選手は、彼らの母国が英語なので、なるべくアメリカ系を目指すんですけど、アメリカに渡っても、当然みんながみんなメジャー契約できないので、そこでマイナー契約っていうのが最低ラインにはなっています。

 でも、結局オーストラリアからアメリカに入る、要は外国人がアメリカに入るっていうところで、ビザの問題ってどうしても出てくるので、カナダやメキシコに行ったりするんですけど、結局アメリカ意外で野球やるイコール給料が低いので、結構ぎりぎりの生活をしている選手が多いです。実際問題そういったお金の事情があるんです。

豊:せっかくパワー系の選手が多いのであれば、もっと普及して行って欲しいですね。ちなみに、オーストラリア国内で注目されている日本人選手っていますか?

加:一昔前は松坂大輔投手でした。2004年アテネ五輪では準決勝で松坂投手が投げ、オーストラリアはジェフ・ウィリアムスという阪神にいたピッチャーが投げていた試合では、オーストラリアが勝って決勝に進みましたが、その影響で知名度はかなり高かったみたいです。

 最近はあまりオーストラリアで有名な日本人選手っていうのは聞かないんですけど、ウィンターリーグに来た選手、巨人の亀井 義行選手ですとか、ライオンズの菊池 雄星投手とかは、選手間では聞いたことはあります。日本の選手で誰か知ってる?とか聞くと、「カメイ」とか「キクチ」とか言っていたので、そこはやっぱり実際に対戦している選手がすごく印象に残っているみたいです。

豊:大谷翔平といかず亀井義行なんですね!

加:オーストラリアのこの世代では、国際大会で大谷選手と対戦している選手がいないんですよね。なので、このWBCでは実際に生でみたいと思ってた選手は多いと思います。

豊:いつかオーストラリアの選手と大谷選手の対戦も見てみたいですね!加藤さん、貴重なお話ありがとうございました!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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