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受け継がれてきた伝統を大切に、春日部共栄吹奏楽部がスタンドからエールを送る

2016.07.11

 2014年夏、9年ぶりの甲子園出場を果たした春日部共栄。アルプススタンドからは全国コンクールで数々の栄光を手にした、春日部共栄吹奏楽部の美しい音色が会場を包み込んだ。今回は一際目立った応援でスタンドを盛り上げてくれる、春日部共栄吹奏楽部を訪ねてみた。

多くの人から愛される伝統の応援曲「ガッツ」

ガッツを演奏する春日部共栄吹奏楽部

 2014年夏の甲子園は、春日部共栄が1回戦で龍谷大平安試合レポート)、2回戦で敦賀気比試合レポート)と、野球も全国ならば吹奏楽部も全国レベルの強豪たちを相手にした戦いとなった。特に龍谷大平安は定番の「怪しいボレロ」を甲子園に響きわたせ観客をも圧倒させたが、対する春日部共栄の演奏も負けていない。

 当時1年生でだった部長・坂本夏果さんにとって初めてだったという野球応援、そして甲子園という舞台を経験し、「初めての甲子園だったのですが、どの高校もすごく迫力のある演奏でとても圧倒されました」と、当時のことを振り返る。吹奏楽部にとっても憧れの舞台である甲子園のアルプススタンド。しかし、相手チームの迫力に吹奏楽部も必死となり、迫力負けをしないよう演奏をしたと言う。

 その中でも一際盛り上がる演奏を鳴り響かせたのは、春日部共栄の定番「ガッツ」。「ガッツ」は春日部共栄のオリジナル曲であり、他にも「WIN」と「応援歌」もオリジナル曲として長く演奏されている応援曲である。この3つの応援曲は、吹奏楽部結成当時から昨年まで就任されていた、元顧問・都賀 城太郎先生が作曲を手掛けたもので、当時の応援曲のほとんどがオリジナル曲であった。その中でも特に選手から愛され、ファンからも多くの人気を得た「ガッツ」、「WIN」、「応援歌」の3つが、現在まで受け継がれている。

 現在の顧問4名のうちの一人である甲斐 早矢花先生は、「新しい曲や流行りがある中でも、このオリジナル曲はとても人気があり、みんなからも愛されているので残り続けています。春日部共栄の応援スタイルとしてとても伝統を大切にしているところがあるので、尊敬の意をもって代々受け継がれていっているのではないかと思います」と語り、野球部だけではなく周りのファンの方たちや応援団の気持ちも大切にしているという背景についても触れた。

 また、部長の坂本さんも「ガッツ」が一番お気に入りの応援曲だと言い、副部長の舘野 美和子さんもオリジナル曲の「応援歌」をお気に入りの曲として挙げた。「やっぱり一番盛り上がるし、周りの応援団とも一体になっている感じがあるので、演奏していて自分たちまで楽しめます」。そう語ってくれた舘野さんからも、伝統の曲が愛されていることがわかる。

 今の時代、様々な応援曲やユニークな応援をしているところはたくさんあるが、こういった「定番」を作ることでも、その高校のカラーが出て、より親しみのあるチームになっていくのだろう。

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野球部の夢はスタンドの夢

トランペットとトロンボーンの皆さん(春日部共栄吹奏楽部)

 現在、吹奏楽部の部員数は123人。この中の約半分の人数で埼玉大会の応援に出向き、甲子園となれば全員で応援に向かう。夏は吹奏楽部もコンクールに向けて忙しい時期ではあるが、普段とは違う環境や周りの人たちと一緒になって楽しく演奏するということを、とても楽しみにしている吹奏楽部。坂本さんと舘野さんにとっても、「甲子園のアルプススタンドという憧れの舞台で演奏することができて、自慢のできる貴重な思い出となりました」と忘れられない思い出となっている。しかし、当時を振り返り、こんなエピソードも語ってくれた。

「甲子園には全員で夜行バスに乗っていったのですが、台風の影響で私たちはパーキングで8時間待機。そして開幕日が順延となり埼玉に引き返したのですが、またすぐ甲子園に向かうことになって、結局トンボ帰りになったんです」というハプニングがあったことを明かした。「とても大変でした」と答える舘野さんも、そういったエピソードを含め、吹奏楽部にとっては尚更忘れられない夏になったのであった。

 以前まではあまり野球を見なかったという部員も、野球応援をきっかけに見るようになったり、楽しいと感じるようになったと話す舘野さん。「普段は室内で演奏しているので、外の広い球場で演奏できるというのは新鮮です。しかも、吹奏楽部だけではなく周りにいる応援団や観客の方たちと一緒になって、一つのものを作り上げていくという、一体感を感じれるところが野球応援の魅力だと思います」と野球応援の魅力について語った。

「相手チームの応援を聞いて、やっぱりすごいところだと、私たちも応援で負けてられないという気持ちになります。野球応援の最中は必死に演奏し、掛け声も応援団と一緒になって必死に叫びます」。そこには野球の試合だけではなく、応援団同士にも負けられない戦いがあった。球場は吹奏楽部にとって、まさにもう一つのコンクールだ。野球部の頑張りをサポートできるように、吹奏楽部は自分たちの実力を発揮し、できる限りの応援で野球部を後押ししていく。そして吹奏楽部の演奏だけではなく、スタンドにいる応援団も、一緒に会場を盛り上げていく上で欠かせない存在だということを強く感じた。

 今年の夏が開幕し、春日部共栄はいよいよ初戦を迎える。吹奏楽部の3年生にとっても今年は最後の夏。もう一度、あの甲子園のアルプススタンドで「ガッツ」を響き渡らせるように、吹奏楽部も野球部と同じ目標で今年の夏に挑んでいく。

(取材・文=鈴木 沙弥加)


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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