Column

3年生座談会 鹿児島実業高等学校(鹿児島)「6時間27分の死闘を振り返って」 vol.2

2016.09.22

 前編では、今夏の鹿児島大会を沸かせた鹿児島実業3年生のメンバーたちが集まり、夏の決勝までのゲームを振り返っていただきました。

樟南との決勝終盤に起きたこと

佐々木 幸大(鹿児島実業高等学校)

――6回から、樟南は浜屋君がリリーフしました。いろいろ対策はしていたそうですが、結果的にはそこから15回まで浜屋君から点が取れませんでした。綿屋君は2安打していますが、他の打者が打てていません。実際はどうだったのでしょう?

綿屋:畠中君よりは全然打ちやすかったです。よっしゃ、ラッキーと思っていました。スライダーも、腕を振った瞬間に直球と違ってふわっと腕が浮くので僕の中ではスライダーと分かって準備ができました。

佐々木:打席でボールが消えるんです。球速は遅くて、打てそうにみえるのですが、そこからボールが消えてワンバウンドのボールを空振りしてしまう。あのスライダーは本当にすごかったです。左打者ならまだ良かったと思いました。最初の打席がスライダーを3球三振。前の試合であれだけ投げているのに制球も良いし、バットが止まらなかったです。

井戸田:ベンチから見ていて、みんな打ちづらそうにしているのは分かりました。それでもどこかに付け入るスキはないか、ずっと探していましたが、ボールが良いことに加えて前川君がそれを引き出す良いリードをしていたので、最後まで攻略の糸口が見出せませんでした。

――9回以降は毎回のように先頭打者を出し、常にサヨナラのピンチを背負いながらのマウンドでした。

谷村:12回は踏み出す左足がつり、13回は軸足の右がつり、14回は両方つっていました。毎回ピンチでしたが「抑えないとみんなの夏が終わってしまう」という気力だけで投げていました。最後は技術ではなく気力。そこだけは鍛えられた自信がありました(笑)。普段の練習で、投手陣はランニングで追い込まれます。僕は体力がないから気持ちで走るしかなかった。月並みですがそんな練習をしてきたことがあの場面を乗り切る力になりました。

綿屋:きついのは分かっていましたが「とりあえず、先頭打者ぐらいはアウトをとってくれよ!」と思いました(笑)。一死から走者を出す分には構わないのですが、毎回先頭打者が出るので守る方もきつかったです。

佐々木:12回裏に先頭打者の今田(塊都・3年)君の左中間の打球が捕れなくて二塁打にしてしまいました。正直、ここで終わったかなと思っていましたが、その回の最後の打者を谷村が三振で打ち取ってくれた時は鳥肌が立ちそうになりました。

綿屋:次の大澤(大樹・3年)君のところで送りバントでしたが、ファーストの僕も、谷村もワーッと声を出してプレッシャーをかけ、捕手の中村(天・3年)も声を出して結果送りバント失敗させました。

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[page_break:じゃんけんに勝って先攻を選んだ本当の理由]

じゃんけんに勝って先攻を選んだ本当の理由

谷村 拓哉(鹿児島実業高等学校)

谷村:僕はピンチの方が楽しいと思えるんです(笑)。延長に入ってからは要注意の左打者は敬遠するという策も徹底していました。ただ、どの場面だったか忘れましたが、敬遠のボールがすっぽ抜けて暴投になりそうになったことがあったんです。敬遠の練習をしていなくて、何となく投げたら高めにすっぽ抜け。捕手の中村が捕ってくれて大事に至らなかったですが、暴投になっていたら相手が勢いづき雰囲気も悪くなってやられていたと思います。捕手が背の高い中村で助かったと思えた場面でした。

――延長15回裏、最後の守りはレフト前ヒット、ホームタッチアウトという劇的な終わり方でした。

綿屋:実際に守っているときは、二走が三塁を回ってくれてホームアウトになって「よっしゃ!完璧なアウトだ」と思ったのですが、後でテレビで見たら、超ギリギリのプレーでした(笑)。レフトの追立(壮輝・3年)がめっちゃ軽く投げていました。逆にそれがよかったのかも。ガチガチに力んで投げていたら暴投になっていたかもしれません。

谷村:外野に運ばれたときは、バックホームに備えて前進しているのは分かっていたので、大丈夫と思っていましたが、走者が三塁を回った時には「ヤバい」と思い、後はアウトをとってくれるのを信じるしかありませんでした。

佐々木:センターから見ていて、浅い当たりだったので、二走の吉内(匠・3年)君が何で回るのかなと思いましたが、あそこで回れるところが吉内君のすごさだと思います。あそこでやられていたら悔いが残ったかもしれませんが、アウトにできてラッキーでした。

――15回、戦い抜いて引分再試合。試合直後や再試合までの中1日はどのように過ごしましたか?

谷村:15回投げ終わった後は、すぐにベンチ裏のクーラーの利いた部屋に10分か15分、寝かされました。次の日、起きたら身体が重かったです。朝はゆっくり過ごして、練習は午前11時ごろからぐらいだったでしょうか。特別変わった練習をすることはなく、普段通りの打撃練習でした。畠中君に対する対策とかは特にやらず、最終的には浜屋君だろうというのは変わらなかったと思います。

――中1日開けての再試合鹿児島実は2日前と同じく先攻でした。

綿屋:先攻後攻を決めるじゃんけんで勝ったら、みんなからは「後攻を取れ」と言われていました。僕はジャンケンが弱くて、いつも負けており、年間通して10回勝ったかどうかぐらいなので勝つことはないと思っていましたが、樟南戦は2回とも実は勝ったんです。でも僕は先攻を取りました。みんなは普段、僕の言うことを聞かないので、こんなときぐらい反抗してやれと思いました(笑)。いつも監督さんから「苦しいのと楽なのとどっちか選べといわれたら、苦しい道を選べ」と言われていて「苦しいのは先攻だろう」と思って決めました。

3人:そうだったの!(驚)

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[page_break:決勝戦の勝負の行方は延長15回再試合に・・・]

決勝戦の勝負の行方は延長15回再試合に・・・

プレー中の谷村 拓哉(鹿児島実業高等学校)

――先発は2日前と同じく畠中君を予想していましたが、今度は浜屋君の先発でした。鹿児島実は先頭の加川(由伸・3年)君がヒットで出塁。しかし2番・佐々木君は強打して良い当たりでしたが、レフト吉内君のナイスキャッチに阻まれました。

佐々木:初球のバントを失敗したことで強打に切り替えました。あそこで決めていればチームに大きな流れが来たのを止めてしまったことに反省が残ります。外野が下がっているのは分かっていましたが、あれが外野を越えられず捕られてしまったところに力のなさを感じました。

綿屋:ランナー一塁で打席が回ってきて、長打を打たないと返せないと思ったので「一発大きいのを狙ってやろう!」と思ったらどん詰まりのゴロになってしまいました。

――その裏の守り。先発は丸山(拓也・3年)君でしたが、ミスが続いてピンチが広がり、5番の吉内君にライナーで左中間を破られて2点を先制され、そこから谷村君がロングリリーフでした。

谷村:監督さんからは「二三塁、満塁になったら、初回からでも行くぞ!」と言われていたので準備はできていました。一死二三塁の吉内君のところで行くかと思っていましたが、そこでは代わらず、2点取られてからの交代でした。ランナー二塁でマウンドに上がりましたが「もうこれ以上取られたら、この試合危ない」と思ったので1点もやらない気持ちでマウンドに上がりました。

――その後のピンチは谷村君が踏ん張って追加点を許さず。樟南の先発は浜屋君でしたが、明らかに調子が悪くて、先頭打者を四死球で出していました。鹿児島実は2、3回と四死球で出た走者を送り、喜岡(大晟・3年)君、綿屋君のタイムリーで同点に追いつきます。3回裏、無死満塁のピンチを併殺の間の1点でしのぎ、1点ビハインドで運命の5回表を迎えます。

佐々木:浜屋君が本調子ではなくて、スライダーも前の試合とは明らかに違ってしっかり見極められたし、バットに当てることもできました。先頭打者の僕が出なければ、後が続かないと思っていたので、四死球でも、エラーでも何でもいいからバットに当てて、塁に出ることだけを考えていました。その想いが通じて、良い当たりではなかったけどサードゴロエラーで出塁できました。

井戸田:3番・中村は送りバントでなくて強打。意外にも思いましたが、このチームは打って勝たないといけないチームだったので、中村が狙い通りに打って、無死二三塁。綿屋が歩かされて満塁。最高のかたちが作れたと思います。

 鹿児島実業ナインの知られざるエピソードが満載の第2回でしたが、まだまだこの熱いトークは続きます!第3回もお楽しみに!

(取材・写真=政 純一郎

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【僕らの熱い夏2016 特設ページ】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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