鍛治舎巧監督(県立岐阜商)具体的な数字の達成で成功体験を積み重ねる
昨年まで務めた熊本県の秀岳館での監督時代に、3大会連続して甲子園のベスト4にチームを導いた鍛治舎巧監督。その後、今春から母校でもある県立岐阜商の監督に就任したが、県岐商だけではなく、すべてのこの春から高校野球をはじめている新入生へのメッセージを聞いてみた
目標を立てて成功体験を重ねる
鍛治舎 巧監督
―― 鍛治舎監督が、高校野球を始める新入生に向けて、最初に伝えておきたいことはどのようなことでしょうか。
鍛冶舎巧(以下、鍛冶舎) 高校に入ってきたすぐというのは、自分に対しての期待もあるでしょうけれども、不安も大きいと思います。だけど、高校野球は始まってしまったら、実質2年と数カ月です。高校野球をやれる時間というのは、思っているよりはるかに短いものです。その間に、成功体験を積み重ねていくこと、それが自分にとっての成長にもなっていくのです。成功体験というのは、目標達成です。その目標も、自分が思い切り手を伸ばせば届くところにあるものでなくてはいけません。そして、その目標を一つ達成出来たら、また次の目標を設定して、そこへ向かって手を伸ばしていく。そうやって成功体験を重ねていくということです
―― そのために、少年野球の枚方ボーイズで指導されていた頃や、秀岳館で指導されていた時、どのようなことがあったのでしょうか。
鍛冶舎 目標設定をして、それを一つずつクリアして、また次の目標に向って行くという姿勢は、これは中学生の枚方ボーイズでも、高校野球でも、社会人野球のパナソニック時代でも変わっていません。成功体験というのは、自信になりますから。一つひとつの成功で自信を得ていくことです。具体的には数字設定をして、数字で見てわかるようにしておくということです。
これは例えば投手ですと、球速がありますね。それも、ただ130キロを5キロ上げるというのもいいのでしょうが、それだけではないんです。投手としてはむしろ緩急の差を40キロ作れるようにするということの方が意味があります。最速は130キロのままだとしても、緩い球を90キロでしっかりとストライクを取れるようにすると、そうなると相手打者はタイミングを外されて打ちにくくなります。そういう目標設定でもいいんです。最速と最遅の球速差があるということは、投手としては大事なポイントにもなります。だから、その幅を広げていくということも一つの大きな目標です。そして、それはそのまま投手としての武器にもなります。
打者であれば、スイングスピードを上げるということがありますね。今は、スイングスピードを計れる機械もありますけれども、そういうものを利用するのもいいでしょう。スイングスピードを上げるということは、強い打球が打てるようになり、ヒットの確率が上がるということになります。具体的には、遠くへ飛ばす力ということです。日々の練習ではロングティーで積み上げていくことでわかりやすくなります。
これは、枚方ボーイズ時代にもやっていたことなのですけれども、ロングティーの飛距離をポイント制で決めていくんです。中学生ですから70mで1ポイント、80mで3ポイント、90mで5ポイントということにしておきます。そして、100球打って、100ポイントを目標とします。5ポイントだったら、10本打てば達成出来てしまいますが、これもわかりやすい数字目標となります。秀岳館では高校生ですから、10m距離を増やしました。80mで1ポイント、90mで3ポイント、100mで5ポイントとして設定しておきました。こうして、目標設定を具体化していきます
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360度目配りできる選手になって欲しい
練習を見届ける鍛治舎巧監督
―― 数字で、はっきりと目標が見えるということは、非常に分かりやすいですね。
鍛冶舎 それは、企業での仕事でも同じことです。企業というのは、必ず具体的な数字目標を掲げます。そして、それを達成するように仕事を進めていくのですが、考え方はまったく同じですね。それに、数字で表されると、非常に分かりやすいです。出来なかったときも、どれだけ足りなかったのかということが明快に分かります。自分の努力の成果がすぐに数字でわかります。そして、一つ目標を達成していくことが、一つの成功体験となります。そうすれば、また次の目標を掲げればいいんです。それを達成していくようにしていきます。
こうして、小さな成功体験を積み重ねていくことが、やがて自分が大きな成長を遂げているということになります。だから、出来もしない目標を掲げてはいけません。あくまでも、一生懸命に手を伸ばせば届く目標ということです。それを達成することが、成功体験となっていくのですから
―― 手の届く目標を掲げていくこと、それを達成していくことが成功体験となる。それを積み重ねていくことが成長になるというのは、非常に分かりやすいお話でした。さらに、具体的な数字目標を掲げていくというのは、これは鍛治舎さんが企業人としても活躍されてきたことからきていますから、非常に説得力があると思いました。ところで、その目標達成をしていく過程で、より大切なこととして、どんなことを心がけていけばいいのでしょうか。
鍛冶舎 気づいたことや、わかったことをその都度ノートに記録していくことですね。“よかったことノート”と“悪かったことノート”と言っているのですけれども、小さなメモ帳みたいなものでもいいですから、それをポケットに入れておいて、練習の合間でも、その都度記入していくのです。
毎回同じことを書いているのであれば、それが自分にとってのよかったことと悪かったことということになるのです。毎回悪かったことが同じであれば、そこを修正していくヒントを貰えばいいんですね。そして、よかったことは自分のよかったことなのですから、長所として伸ばしていけばいいんですよ
―― 鍛治舎監督は野球人としても社会人野球から中学生の少年野球まで広い範囲で監督をされてきたという経験がありますし、NHKで高校野球の解説者としても温かいメッセージを届けられていたという実績もあります。その立場からも含めて、これから高校野球に真剣に取り組んでいこうとしている球児たちに届けて戴けるメッセージがあればお願いします。
鍛冶舎 先ほども申し上げましたけれども、高校野球をやる時間というのは、実際には非常に短いんです。だから、今の一つひとつの時間を大事にしてほしいということはありますね。これは今の県岐阜商に来て余計に感じていることなのですけれども、私立で選手たちが寮で生活している秀岳館に比べると時間そのものが少ないんです。だから、時間を大切にしていくということは特に心がけるようにさせています。そのためには、無駄な時間を作らないということ、これは大事ですね。
それと、野球というのは、練習の場や試合など、そこで起きたことの問題点はすべて、グラウンドで解決できるのです。だから、すべてがグラウンドにあるという思いですね。野球の問題はグラウンドで解決出来るのです。ただ、野球のグラウンドというのは90度ですね。その外はファウルになります。だけど、生活の中では360度必要なんです。残りの270度に目配りが出来る、そんな選手になってほしいですね
―― それも、野球を通じて人間的な成長を育んでいくということにもつながっていくのではないでしょうか。
鍛冶舎 そうですね。それと、これはNHKで解説をさせて戴いていた時に言ったことなんですけれども、甲子園で決勝が終わって、場内一周をしているとき、もう北海道ではすでに選抜を目指した戦いが始まっているんです。高校野球は、全国のそれぞれの場所で行われています。その時には既に負けてしまって夏の目標に切り替えている学校もあります。そして、それぞれの甲子園があっていいんです。遥か先の甲子園を目標としていくのもいいのですけれども、自分たちにとっての近い目標、それを甲子園だと思っていくことです。そして、そこを目指して目一杯やってきた成果、燃え尽きたと思えるまでやってほしいと思います。『そこそこやるか、そこまでやるか』その違いは大きいはずです。そんな思いで取り組んでほしいと思います。
それと、甲子園というのはわずか2週間ほどの間で炎天下に17~18歳の高校生たちの試合に80万人もの人が訪れるイベントです。これは完全に文化です。スポーツを越えた文化だと言ってもいいでしょう。野球人としては、そんな文化を支えていかなくてはいけないという思いもあります
―― 熱いメッセージ、ありがとうございました。
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文=手束 仁