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桐蔭横浜大(神奈川)齊藤 博久監督「緻密な戦術は組織作りと日々の練習で練られるもの」【後編】

2017.09.16

 桐蔭横浜大を全国クラスの強豪に育て上げ、12年の明治神宮大会では創部わずか7年目ながらチームを日本一に導いた齊藤 博久監督。今春の神奈川大学野球リーグでも10戦全勝で完全優勝を果たし、09年以来9年連続で春か秋のいずれかのシーズンでリーグ優勝(13年は春秋連覇)している桐蔭横浜大は、どのようなゲームプランを立てて試合に臨んでいるのだろうか?

桐蔭横浜大(神奈川)齊藤 博久監督「選手主体のゲームプラン作り」【前編】から読む

会心のゲームとなった慶大戦

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 これまで多くの試合を積み重ねてきた齊藤監督だが、ゲームプランが上手くはまった試合として印象に残っているのは慶大と対戦した10年の大学選手権・2回戦だ。
「当時の慶大の主戦は竹内 大助投手(トヨタ自動車)と福谷 浩司投手(中日)の2人で、どちらもモーションが大きかったんです。そこで、キャッチャーは強肩だったんですが、この試合では『必ず三盗をする』というテーマを掲げました」

 実際の試合では福谷投手が先発。桐蔭横浜大の東明 大貴投手(オリックス)と共に6回まで両チーム無得点の投げ合いとなるが、7回表の桐蔭横浜大は二死ながら一、二塁のチャンスを作る。この場面で齊藤監督は「二塁ランナーに三盗のサインを出しました。勝ち上がれば慶大と当たる組み合わせになった時から、この時のためにずっと三盗の練習をしてきましたからね」

 そして、狙い通りに盗塁を決めて一、三塁とすると、今度は一塁走者がスタート。キャッチャーが二塁へ送球する間に三塁走者がホームを陥れるダブルスチールで先制点を奪うのに成功した。
「肩が強い捕手は盗塁を刺したいという気持ちが強いので、読み通りでした」

 その後、同点に追いつかれたが、9回表の攻撃では先頭打者が出塁するとバントで送り一死二塁。この場面も齊藤監督は三盗のサインを出した。
「ここも盗塁に成功して一死三塁としたのですが、二塁走者がなかなかスタートをきれなくて打者のカウントが悪くなっていたんです。ギャンブルスタートのサインは出していたので、内野ゴロでも得点できる可能性はあったのですがバッターは三振で結局、得点を挙げることはできず、試合もサヨナラで敗れてしまいました。でも、ゲームプラン的に見れば会心のゲームでしたね」

[page_break:「勝とう」ではなく「負けない」]

「勝とう」ではなく「負けない」

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 続く11年は秋季リーグで優勝し関東地区大会に出場。明治神宮大会出場を懸けた準決勝では菅野 智之投手(巨人)の東海大と対戦した。
「あの時のミーティングでは、戦術らしいことは言ってないんですよね。『ストレートはもちろん、カットボールもスライダーもとにかく速いからバットを短く持っていけ』ぐらい(笑)。でも、選手には『絶対に負けないから』と言いました。ウチはバッテリー中心に守って逃げ切るという負けない野球をずっとやっていますし、選手たちも普段の練習から本当に真摯な気持ちで野球に取り組んでくれていますから自分たちからミスをして負けにいくことはないんです。

 それに集中力を持って最後まで諦めずに戦ってくれるので、『負けない』という自信はあったんですね。それに、『勝とう』と言うと選手に余計な力が入ってしまいますから、『負けない』という言葉を使ったというところもあります。やはり、どのように伝えれば選手の心に響くのか、言葉選びには気を付けますね」

 また、この大一番でも先発を託した東明投手にはわざわざ電話を掛けて、こう伝えた。
「前年の慶大戦と同じように『1点差で勝っている状況で終盤を迎えることになるぞ』と話しました。具体的なイメージをさせて、試合で慌てないように心の準備をさせたんです」

 実際は逆に1点リードされて終盤を迎えた桐蔭横浜大だったが、東明投手は9回1失点の好投。打線は9回裏に2点を奪って逆転サヨナラ勝ちを収め、見事に全国大会へのチケットを手にしたのだった。

[page_break:好投手を打ち崩す、緻密な戦術]

好投手を打ち崩す、緻密な戦術

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 翌12年には明治神宮大会に2年連続で出場を決めると、準決勝で亜大、決勝で法大を破って優勝。初の全国制覇を成し遂げた。この大会で齊藤監督がキーポイントだったと振り返るのが松葉 貴大投手(オリックス)を擁する大阪体育大との2回戦。

「当時、横浜商大に同じサウスポーの岩貞 祐太投手(阪神)と西宮 悠介投手(楽天)がいて、リーグ戦で1対0とか2対0という僅差でなんとか勝っていたんですね。それで『岩貞投手や西宮投手を手本にすれば、松葉投手のスライダーも見極められる』と自信を持たせました。そして、低めのゾーンは見逃す。そのボールがスライダーではなくストレートで見逃し三振になったとしてもOK。

 あと、右打者のインコースに来るボールも打てなくていい。その代わり、甘く浮いてきたボールは打っていこうと指示しました。その結果、ゲームプラン通りに5点を取って勝つことができたんですが、この試合はエースの小野 和博(SUBARU)が不調で4回途中で降板していただけに大きかったですね」

「監督の一番の仕事は、選手の起用と戦術を間違えないこと」と話す齊藤監督。大舞台でも結果を残している桐蔭横浜大のその裏側では緻密な戦術が練られ、そのプランを実行するための組織作りと地道な練習が行われていたのだ。

(取材・文=大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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