Column

創成館の台頭で新時代到来となり、長崎日大、波佐見、佐世保実が追う

2018.07.03

長崎南山と海星が長崎の高校野球を変える

創成館の台頭で新時代到来となり、長崎日大、波佐見、佐世保実が追う | 高校野球ドットコム
長崎の野球を変えた海星

 日本の歴史をたどれば、鎖国政策をしていた江戸時代で唯一海外の新しい文化を取り入れることを許されていたのが長崎だった。そういう意味では、進取の気性に富むというか、新しいものを取り入れることには抵抗のない地域であるというとらえ方もできるだろう。だから、海外スポーツである野球もいち早く普及していたかと言うと、そうでもない。もっとも、文化の受け入れ口がオランダなのだから、野球とはあまり関係ないということだろうか。

 長崎の高校野球はどちらかというと立ち遅れていた。戦前、ほとんど実績はなく、わずかに長崎中(現長崎西)と長崎商がそれぞれ甲子園出場を果たしてはいるものの、これといった成績を残しているわけでもない。
  戦後になっても同じような状況は続き、甲子園の結果だけでいえば、わずかに1952(昭和27)年に長崎商が春、夏それぞれ勝利をおさめてベスト4に残ったこともあるが、それ以外は苦戦続きだ。そして、そこまでは公立校がすべてだった。
 そんな長崎の高校野球構図が変わってきたのは、県勢としては初めての私立として甲子園に出た長崎南山が59年春に杉町攻投手(西鉄)で突発的にベスト4に進出してからである。

 その年の夏から長崎海星が主導権を握り始めるようになる。野球部の創部そのものは1915(大正4)年と歴史は古いものの、長い間苦戦の続いた長崎海星だったが、まるで長崎南山に刺激されたかのように強化されていった。それにしても、公立勢の壁を破った私立校の2校が2つともカトリック系というあたりはいかにも長崎県らしいといえるのではないだろうか。

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長崎の海星と三重の海星

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新しいリーダー格・長崎日大

 長崎海星が甲子園で初勝利を得るのは甲子園に出場しだしてから7回目にして、やっと達成することになる。そして、「長崎に長崎海星あり」ということが全国的に認識されたのは76年だ。夏の長崎大会で先頭打者から連続16奪三振という快記録を達成して甲子園に乗り込んだ怪物サッシーといわれた酒井圭一(ヤクルト、現スカウト)を擁してベスト4に進出した時である。甲子園でも春の優勝校崇徳と息詰まる投手戦を演じた。この頃には長崎の長崎海星の存在がすっかりファンに定着してきていたのである。

 また、これは極めて因縁めいて不思議なことなのだが、長崎海星は甲子園で二度までも同名の三重県の三重海星と戦っている。戦績は1勝1敗となっている。それにしても、甲子園でたまたま長崎で長崎海星が出てきているときに三重県でも三重海星が出場してくるということさえも奇遇なのに、それが二度も当たるということは本当に面白い。確率的には極めてまれな確率になるはずなのだろうが、こういうところも高校野球観戦のもう一つの妙味なのかもしれない。

 閑話休題、長崎海星は長崎県の高校野球ということでいえば指導者を多く輩出しているということでも果たした役割は大きい。初の甲子園を導いた的野和男投手は長崎日大監督となって何度も甲子園に登場している。長崎海星出身で、高嶋仁は智弁学園から智弁和歌山の監督となって、今では全国でも屈指の名監督という立場を不動のものにしている。さらには73年の長崎海星主将は瓊浦を率いた安野寿一監督である。

 こうして、長崎県は長崎海星人脈が根幹として太く流れて、レベルを向上していっているといえそうだ。

 長崎日大はその後、金城孝夫監督が就任して大瀬良大地投手(広島)を擁し夏のベスト4にも進出。今や長崎海星をもしのぐ勢いである。完全に長崎県の新しいリーダー格となっている。

[page_break:長崎県悲願の全国制覇を果たした清峰]

長崎県悲願の全国制覇を果たした清峰

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悲願の初優勝を果たした清峰

 そんな歴史とは別に長崎県悲願の全国優勝を果たしたのは、北松南から校名変更した清峰だった。2005年夏に初出場を果たすと愛工大名電済美と相次いでセンバツの優勝校を下して3回戦に進出。そして、翌春も出場すると、2回戦では東海大相模に延長14回で競り勝つなどして決勝進出。横浜に敗れはしたものの、県勢初の決勝進出の大躍進に沸いた。その年の夏にも出場して、清峰が一大勢力となっていった。
さらに08年夏と09年春にも今村猛投手(広島)を擁して出場して、09年春は決勝では花巻東菊池雄星との投げ合いを制して、1対0で勝利して悲願の優勝を果たした。長崎県勢としても初の栄冠だった。

 長崎日大と長崎海星の競い合いが続いていた時代には公立勢力としては1994(平成6)年に比較的歴史は新しいが、地元では文武両道の方針で人気のある長崎北陽台がベスト8に残った。その翌々年には西彼杵郡の長崎北陽台に対して、東彼杵郡にある波佐見が初出場でベスト8に残って健闘した。市内ではない地域の学校の頑張りも光った。甲子園出場実績のある佐世保工や女子駅伝で実績を上げている諫早も安定した成績を残していた。

 そこへ、突然の清峰の大躍進だったのだが、近年は新たに創成館が登場してきた。13年春、14年春、15年夏と3年連続で春夏どちらかで出場を果たした。そして17年秋は九州大会でも優勝し翌春のセンバツに出場する。こうして現在はあっという間に県を引っ張る存在となっていった。そこに伝統の長崎海星と長崎日大が競り合い、佐世保実波佐見、さらには伝統の長崎将と実績のある清峰、18年春季県大会準優勝の新勢力の長崎総科大附長崎南山なども絡み合っていくという構図が続いていきそうだ。

(文:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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