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歴史的に戦前の和中、海草、と戦後の箕島、智弁和歌山と4つの時代を築く【和歌山・2018年度版】

2018.05.31

戦前は和歌山中と海草中、戦後は箕島が力を示す

歴史的に戦前の和中、海草、と戦後の箕島、智弁和歌山と4つの時代を築く【和歌山・2018年度版】 | 高校野球ドットコム
戦後の和歌山を牽引した箕島

 長い高校野球史の中でも、全国の中で和歌山県の活躍は光る存在だ。和歌山県勢は4度の時代を作っている。それぞれが高校野球の歴史の中でも燦然と輝く不滅の記録といっても過言ではないものだ。
 最初の黄金時代は和歌山中で、戦後の学制改革で桐蔭と名前を変えたが、03年に21世紀枠の近畿地区の候補となっている。今日でも伝統を受け継いだ形で野球部の存在は評価されている。
 戦前の和歌山県の記録を見ると、ある時代まではそれはそのまま和中(わちゅう)の記録ということになる。しかも、スコアを見ると15~20点はザラで何の試合かと思えるような得点をあげており、その強打は突出していたのだろう。ことに1921(大正10)年の夏などは全試合2桁得点で勝っているのだから呆れてしまう。
 和中は第1回大会から14年連続出場を果たす。それを阻止したのが海草中で、戦後になって向陽と校名変更して甲子園にも出場している。海草中は戦争で中断する前に、2年連続で優勝という記録がある。しかも、39年夏はエース嶋清一投手が5試合連続完封で、準決勝と決勝の2試合が連続でノーヒットノーランという快挙中の快挙で優勝というのだから驚く。この快記録は恐らく永遠に破られないだろう。強打の和歌山中と投手力の海草中が戦前の和歌山県を彩った。

 戦後になって和歌山県は前岡勤也投手のいた新宮藤田平のいた市立和歌山商(現市和歌山)もそれぞれ結果を残した。桐蔭も伝統を守りチーム力を維持していたが、新しく星林も甲子園に姿を現した。近年は甲子園こそ出てはいないものの、侍ジャパンの小久保裕紀前監督(青学大→ダイエー→読売→ソフトバンク)の母校でもある。

 そんな中、新しい和歌山県の時代は尾藤公監督率いる箕島が作ることになる。学校は古く明治に創立していたのだが、野球部が強化されたのは尾藤監督が就任してからで就任3年目の68年春に初出場。エース東尾修(西武)でベスト4に残る。さらに2年後には島本講平(南海)がエースで四番となり全国優勝する。とにかく甲子園に登場すると強い箕島はこのあたりから印象づけられていく。77年春にも東裕司投手が5試合中4試合を完封しての文句ない優勝を果たしている。
 箕島はその翌年春もベスト4に残り、79年にはついに石井毅(住友金属→西武)―嶋田宗彦(住友金属→阪神)のバッテリーで春夏連続優勝を果たすことになる。春は浪商を打撃戦の末に倒して優勝する。夏は3回戦で星稜と延長18回の球史に残る大熱戦を経て、堂々たる春夏連続優勝を達成することになる。試合内容といい、実績といい、箕島の野球が、完全に一つの時代を作ったことの証明でもあった。

[page_break:箕島の後退と同時に頭角を現し始めた智弁和歌山]

箕島の後退と同時に頭角を現し始めた智弁和歌山

歴史的に戦前の和中、海草、と戦後の箕島、智弁和歌山と4つの時代を築く【和歌山・2018年度版】 | 高校野球ドットコム
智弁和歌山の時代が到来し、「智辯」のユニホームも甲子園ではお馴染みとなった

 箕島が頂上を極めてから、徐々に後退していくようになると、今度は少数精鋭主義という新しい方法論で登場してきた智弁和歌山が新勢力となっていく。
 智弁和歌山は甲子園に姿を現しはじめた当初、立て続けに初戦の1点差負けが続いた。智弁学園である程度の実績を持って自信のチーム作りをしてきた高嶋仁監督にとっては苦悩の時代だった。

 それでも、93年夏に初勝利を挙げると、ここから黄金時代がスタートした。

 智弁和歌山は毎年10人の新入生を迎え入れ全体で30人の部員という方針を崩さない。彼らはいわば選ばれた野球エリートである。その10人に入ることは並大抵ではない。そんなハイレベルな選手たちが、無駄を排除して自己管理の大人のチームとして鍛えられていくのだ。
 94年春に最初の全国制覇を果たすと、2年後の春は準優勝。そして、97年夏には決勝で平安を下して優勝。完全に智弁和歌山時代を形成した。00年春も準優勝すると、夏は6試合中5試合で二桁得点を挙げて全国制覇。2年後の夏も準優勝と、甲子園に出場すれば確実に上位に残る、そんな存在となっていた。その後、やや停滞感があったが、2年ぶりの17年夏には1回戦の興南との試合は6点差を跳ね返す猛打ぶりで智弁和歌山らしさを示した。そして、4年ぶり出場となった18年春には猛打ぶりを発揮して決勝進出。決勝では前年夏に続いて大阪桐蔭に敗れはしたものの、「強打智弁和歌山健在」を強烈に印象づけた。

 こうして春12回、夏22回の出場で、甲子園通算61勝31敗、勝率6割6分3厘で優勝3回準優勝4回、ベスト4が2回と圧倒的な記録を残している。そして、これがすべて高嶋監督の智弁和歌山での数字でもある。
 もちろん、この数字は今後もさらに上乗せされていくであろう。しばらくは、智弁和歌山の時代は続く和歌山県だ。

 それに何とか抵抗を示しているのが市和歌山、和歌山商箕島らの伝統校だ。さらに、97年春に分校からの甲子園出場が話題となった日高中津分校、吉備から名前を変更した有田中央や、御坊商工から校名変更して17年夏の和歌山大会は決勝まで進んだ紀央館などがいる。日高中津も17年秋は決勝に進んでいる。また真言宗総本山があり、日本仏教の聖地ともいわれる高野山も88年夏に一度甲子園出場を果たしている。15年秋には久々に県大会決勝まで進出して気を吐いた。他には近年も和歌山東が上位に進出を果たしている

 

(文:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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