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圧倒的私立校優勢の構図ながら、頑張る都立勢が刺激になり盛り上がる【東京都・2018年度版】

2018.04.07

圧倒的私立校優勢の構図ながら、頑張る都立勢が刺激になり盛り上がる

圧倒的私立校優勢の構図ながら、頑張る都立勢が刺激になり盛り上がる【東京都・2018年度版】 | 高校野球ドットコム
昨年の秋季東京都大会で優勝の日大三

 学生スポーツの先駆者として早稲田と慶應が引っ張ってきたという歴史。これは、高校野球でも同じである。東京はそのお膝元といっていい。慶應はやがて神奈川へ移転するが、早稲田は東京の雄として存在し続けている。高校野球でいえばその役は早稲田実が引き受けている。21世紀になって新宿区早稲田(グラウンドは武蔵関)から国分寺(グラウンドは南大沢)へ移転し、地区割りも東東京から西東京への移動になったのは、東京都の高校野球地図としては多少の影響があったのは確かだ。

 早稲田実といえば世界の本塁打王・王貞治(読売、現ソフトバンク会長)の母校であり、王投手で57年春に全国制覇して、甲子園でも「WASEDA」の力を見せつける。さらに、早稲田実が注目を浴びたのは、荒木大輔(ヤクルト→横浜)が1年生投手で活躍して準優勝を果たした78年夏である。

  以降、「早実フィーバー」で甲子園に女性ファンを増加させたとも言われた。これで、甲子園のファンには確実に早実の早稲田スタイルのアルプススタンドの応援雰囲気ともども定着させた。そして06年夏は斎藤佑樹(早大→日本ハム)が登場して全国制覇。一躍ヒーローとなり、話題の中心となっていった。さらに清宮幸太郎(日本ハム)が、1年生から本塁打を量産して注目を浴びた。

 

  同じ西東京では東京を代表する名門として日大三が選手の質はもちろん環境、近年の実績すべてで完全にリーダーとなっている。

 

 62年春には倍賞明などで準優勝を果たしている。これが日大三の最初の存在感を示す活躍となるが、71年、72年と春に連続して決勝進出して優勝、準優勝と実績を積み上げていく。そして01年に近藤一樹投手(近鉄→オリックス)らで全国優勝して、通算最高打率を残して「打棒の日大三」も印象づけた。

さらに、2010年春に準優勝して、翌年夏には2度目の全国制覇を果たす。この時も、高山俊(阪神)らの圧倒的な打撃力が看板となっていた。そして17年、18年と2年連続して春の甲子園に出場。相変わらずの安定感を示している。

 

  早実が荒木大輔で準優勝した80年春には、帝京が準優勝を果たしている。その2年前に初めて甲子園に登場した帝京だが、やがて全国でも屈指の強豪となっていくプロローグだった。帝京が早実を下して夏の甲子園に姿を現すことになるのは83年だ。一度壁を打破して以来すると、帝京は毎年チーム力を蓄え、やがて東京都では一番の素質軍団となる。甲子園でも、夏2回、春1回の全国優勝を果たす。

 帝京の活躍に刺激を受けてか、84年春には岩倉PL学園を倒し、初出場初優勝の快挙を果たす。相前後して二松学舎、関東一といった甲子園でのキャリアが浅い学校も春のセンバツで準優勝をするようになる。

  このあたりから、東京代表は比較的春に強いということが定着してきた。それは、一つには少年野球の好素材の選手が入ってきて、素材のよさがそのまま生きる秋季大会から春のセンバツにかけてチームがピークになるということもあるのではないかとも考えられた。

  90年以降になって、永田昌弘監督の熱心な指導が効を奏して国士舘が台頭して甲子園出場を果たす。ことに、春はベスト4が2度あるのは見事だ。05年夏に悲願の夏の甲子園出場も果たした。永田監督はその後、一旦は大学監督を務めたが、15年秋から高校監督に復帰している。

  組織的な背景もあり、全国的な規模での選手集めが可能な創価なども、素質に恵まれた選手の宝庫となっていった。春3回、夏5回の出場実績があり、95年夏には準々決勝で帝京と東京勢対決も経験している。

  夏の公園には、なかなか縁遠かった二松学舎も14年夏に1年生バッテリーで悲願達成する。そして、17年夏にも2度目の出場を果たした。

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夢の甲子園を目指す都立高

圧倒的私立校優勢の構図ながら、頑張る都立勢が刺激になり盛り上がる【東京都・2018年度版】 | 高校野球ドットコム
早稲田実出身清宮幸太郎・関東一出身オコエ瑠偉

 

  東京都のレベルが向上した要素としては、時代の流れとともに都会に中学の野球部ではなくて硬式球を使用する少年野球が普及してきたことも大きい。少年野球と一口にいっても範囲は広い。その中で、一番注目されるのは調布や現在は武蔵府中や世田谷などに代表されたリトル・シニアリーグだった。私立校で野球部を強化している学校は、こうした中学時代から硬式球に親しんでいる選手たちの存在が大きく影響していた。今では東京都の高校野球は、とくに少年野球の情報はチーム強化に欠かせない要素にもなっていっている。

 

 2015年夏には、そんな選手たちの活躍で東東京の関東一、西東京の早稲田実の両校が甲子園でベスト4に進出している。強い東京勢の存在を、改めて全国に示すこととなった。関東一にはオコエ瑠偉(楽天)がいて、早稲田実には1年生ながら清宮が話題をさらっていた。

 

 ここまで述べてきたように、東京の高校野球は圧倒的に私立校が強いというのが現状だ。それでも、都立校では甲子園は夢のまた夢といわれていた時代に、甲子園に向けてひたすら頑張り続けた学校があった。東大和だった。佐藤道輔監督(故人=『甲子園の心を求めて』などの著書も有名)の熱い指導の下、かなりの強力チームになっていて、春季関東大会に出場し、2度までも西東京大会の決勝に残ったこともあった。しかし、あと一歩で結局は甲子園の夢はならなかった。

 

 鍛え上げられた東大和をしても、私立校の壁は厚いと多くの人が思い出した矢先の80年、西東京大会で国立があれよあれよと決勝戦まで上り詰めた。決勝でも同じく初出場を狙っていた駒大高に2対0で勝って甲子園に届いた。これは、東京都高校野球始まって以来とも言われた大番狂わせでもあり、歴史に残る快挙だった。

 

 ただ、それは一つの切っ掛けにはなったものの、必ずしも都立校に可能性が芽生えたというふうにはならなかった。やはり帝京日大三早稲田実堀越関東一修徳桜美林日大一日大二に80年代後半から急速に強くなった国士舘創価、二松学舎などの壁は厚かった。

 

  国立の甲子園から19年、多くの人の記憶もその快挙が片隅に追いやられるようになっていた。私立の強豪といわれる学校も、前述校以外にも國學院久我山東海大菅生岩倉東亜学園世田谷学園安田学園日体荏原(現日体大荏原)や日大鶴ヶ丘日大豊山など中堅以上の力を持つ私立も軒並み増えていた。

 

 しかし、そんな中で確実に甲子園を意識してチームを強化していた都立校が有馬信夫監督率いる城東だった。普通の都立校だが、監督と選手の意識は普通ではかった。「強い思いで信じれば必ず夢はかなう」という信念にも似た思いで取り組んで、甲子園出場を掴み取った。確実に新しい波が来ていることを告げるものだった。

城東の甲子園出場は多くの都立校の指導者や選手たちに勇気と自信を与えた

 

 都立の指導者たちを中心として80年代に「高校野球研究会」という集まりが組織されていた。任意団体ではあるが、熱心な指導者たちが情報交換をしながら切磋琢磨していくことが目的となっている。城東の甲子園出場はその一つの大きな成果でもある。その中心メンバーでもある有馬監督は01年から保谷に移ったが、代わって城東は請われて梨本浩司監督が就任。

 早々の01年夏に再び甲子園出場を掴み、城東はもはや東京の強豪校という位置づけを確かなものとした。指導者の引継ぎもスムーズに流れたいたことの証明にもなった。この年はベスト4に江戸川も残った。

「都立決勝実現か」と地元マスコミも煽っていた

 

 その2年後、東東京では雪谷も甲子園を実現する。04年夏には西東京で昭和と国立がベスト4に進出し話題となった。日野もベスト8、ベスト4の常連となり、13年には西東京大会決勝にまで進出している。日野は16年の秋季東京都大会でもベスト4に進出した。また、小山台は14年春に東京都としては初の21世紀枠代表校として甲子園出場も果たした。さらには片倉、府中工、小平、文京、総合工科、紅葉川、足立新田などもそれぞれ実績を残してきている。

 私学勢も復活を目指す岩倉日大二佼成学園修徳東亜学園城西大城西堀越などがいる。16年夏に悲願の初出場を果たしているのが八王子学園八王子だ。大学系列校も東海大系列校として唯一甲子園出場がないだけに、悲願を果たしたい東海大高輪台はじめ、“本家早稲田”としての意地を示したい早大学院青山学院、法政大学高、明大中野明大中野八王子。さらには、雪谷を甲子園に導いた相原健志監督が招聘された日体大荏原、過去春に一度甲子園出場を果たしている駒澤大高に専大附なども虎視眈々と上位を見据える。そして近年躍進している聖パウロ学園駿台学園錦城学園朋優学院足立学園、日本ウェルネスなどの存在も侮れない。日大三で全国優勝経験のある元ヤクルトの内田和也監督が指導する立正大立正も見逃せない。

 各校ともに、指導者が切磋琢磨しあう環境がある。情報交換しながら、お互いのレベルを上げていこうという意識で取り組んでいる。だから、東京都の高校野球は確実に底上げされてきており、強豪校といわれるところでも序盤から安心はできないというようになってきている。

(文:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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