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「打倒横浜」から「3強」に変化している神奈川県の勢力構図(神奈川)

2017.04.16

 横浜時代から東海大相模桐光学園も加わり高いレベルの3強を各校が競っている。

「打倒横浜」だった神奈川高校野球

 「打倒横浜」これが、横浜以外の神奈川県高校野球高校野球関係者のほぼ一致した目標である。それくらいに、横浜の壁は厚く強烈だった。しかし、近年は横浜絶対というよりも、東海大相模とのマッチレース、さらにはこれに桐光学園が加わっての三つ巴、慶應義塾も加えての4強という声も聞かれる。

 いずれにしても、これらの4校が200校近い神奈川県の高校野球のもっとも高いところで競い合っていることは確かだ。
歴史的に言えば、伝統では慶應義塾ということになろうが、実績という点では横浜が群を抜いている。

 史上最強チームはどこかということは、野球好きの間でもしばしば議論されることである。その候補として、多くの人に間違いなく上げられるのが松坂 大輔(西武→MLB→ソフトバンク)らのいた98年の横浜であろう。まず、現在の高校野球においては攻守で作り上げられる範囲の最高のものを作り上げたといっても過言ではない。選手の素材の確かさの上に練習の質の高さという足し算を重ねていったことによって完成させた、名将渡辺 元智監督の一つの最高傑作でもあった。

 もっとも、強い横浜はそれだけではない。横浜の甲子園の歴史は江川で沸いた1973(昭和48)年春の優勝から輝き始める。さらには、愛甲 猛投手(ロッテ→中日)の80年夏の全国優勝で一つの頂上にたどり着く。この年のチームも史上最強チームの候補に入れても不思議はない、負けないチームだった。

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横浜高校時代の涌井 秀章(写真提供=手束仁)

 さらに、03年春には成瀬 善久投手(ロッテ→ヤクルト)を中心としてまとまりのいいチームで準優勝を果たし、スター選手不在でも勝てるチーム力の高さを示した。その翌年も涌井 秀章投手(西武→ロッテ)や石川 雄洋(横浜・DeNA)らでベスト8に進出している。横浜を倒した駒大苫小牧はそのまま全国制覇を果たしている。

 「神奈川を制するものは全国を制す」というのは、しばしば高校野球で神奈川県の質の高さを表現する言葉として用いられる。ただし、厳密にいうと、「神奈川を倒せば全国制覇に至る」と言うことになるのかもしれない。
いずれにしても、確実に神奈川県のレベルは高い。

 県内で横浜の最大のライバルはどこだろうかというのも、関東の高校野球ファンの間ではよく議論されることでもある。一時的には桐蔭学園という時代があった。文武両道分業型といってもいい学校の方針の先駆的役割でもある。71年の夏に初出場してきて、極めて高度な野球を展開して初優勝を果たした。

 その桐蔭学園を模範として追いつけ追い越せで実績を上げてきたのが、一字違いの桐光学園だ。野球部より先にサッカー部が全国大会に出て注目を浴びたが、野球部は01年センバツに悲願の初出場。少年野球のエリートたちを集めての野球部強化と、指定校制度も巧みに駆使して徹底した進学指導という二本柱の方針は桐蔭学園と同じである。早大出身の野呂 雅之監督の指導も選手の個性を生かしたものということで評価も高い。02年夏についに夏の甲子園出場も果す。その前年のチームが全国でもベスト8以上のレベルといわれながらも横浜の壁に跳ね返されただけに感動も大きかった。さらには、2年生ながら松井 裕樹(楽天)が1試合奪三振記録を樹立した12年夏の活躍などで、桐光学園はあっという間に全国区となった。

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東海大相模時代の原 辰徳(写真提供=手束仁)

 神奈川県の高校野球では、横浜の双璧として忘れてはならないのが東海大相模だ。県内では60年代後半には武相が一時期時代を作っていたが、新鋭の東海大相模に福岡県の三池工で初出場初優勝の快挙を果たした原 貢監督が就任する。これが、東海大相模の時代の第1次黄金時代の始まりとなる。打撃優先のチーム作りは驚異的だったが、大胆な守備陣形なども含めて、完全に大人のチームという感じだった。

 70年夏に初優勝を果たすと、75年春原 辰徳(読売前監督)、津末 英明(日本ハム→読売など)らの強打者を擁して準優勝。しかし、その後はやや低迷に陥る。それでも、92年春に準優勝するなど存在感は示している。春は2000年にも全国制覇を果たすものの、夏の甲子園はなかなか縁がなかった。

 そんな折に2010年に悲願の春夏連続出場を果たすと夏は準優勝。さらに、翌春も全国制覇するなど完全に第2次黄金時代を形成。県内では高いレベルで横浜、桐光学園などと競り合いながら15年夏には小笠原 慎之介投手で全国制覇を果たす。

[page_break:厚い3強の壁]

厚い3強の壁

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東海大相模時代の菅野智之(写真提供=手束仁)

 出場すれば強い神奈川県勢という存在の象徴でもあるが、こうした3強構図が他校にとっても高くて厚い壁となっている。

 それでも15年夏の神奈川大会で準優勝し、その秋には県大会を制した慶應義塾はじめ、09年夏に悲願の初出場を果たしている横浜隼人、大学や社会人経由も含めると10人以上ものプロ野球選手を輩出している横浜創学館07年春出場の日大藤沢や、部員数では県内でも1~2を争う多さの横浜商大に、県西勢では実力校として注目されており、関東大会にも出場を果たし、過去には甲子園出場実績もある平塚学園などが競い合っている。また、日大高も甲子園には届いてはいないものの、関東大会に進出するなど、あと一歩のところに顔をのぞかせている。

 過去の実績と伝統で、古豪復活が待たれているのは武相法政二だ。武相は、山形県酒田南で実績をあげた西原 忠善監督を招いて、チームを刷新して復活を図る。

 伝統校の復活ということで言えば、戦前は日本で最初に正式に野球の対外試合をした学校ともいわれている横浜商にも注目が集まる。市立校としての伝統もあるし、校章が「Y」の文字なので、地元では親しみを込めて 「Y校」と呼ぶ。戦後はやや低迷が続き、4年連続決勝戦で敗退などの悲運を経験しながら、1979(昭和54)年に宮城 弘明投手(ヤクルト)で46年振りに甲子園に戻ってベスト4に進出した。以降、再びY校への期待も高まり、それに応えられるチームになっていった。83年は三浦 将明投手(中日)で春夏ともに準優勝を果たし「Y校」の呼称もすっかり全国のファンにも定着した。

 さらに歴史をさかのぼって行くと、戦後すぐの神奈川は湘南が全国優勝したことも世間を驚かせた。湘南は今、県内で21世紀枠の代表校として推薦される可能性が高い学校として期待されている。

 歴史をふり返ってみると私立勢力が圧倒的に上位の神奈川県だが、Y校と湘南以外でも公立校も限られた条件下ながら頑張っている。ことに近年では15年の春季県大会で準優勝まで駆け上がって一気に話題となった県相模原、99年夏に桐蔭学園に負けたが決勝まで残った桜丘と、01年春季大会で準優勝し、関東大会に出場して新しい歴史を作った百合丘などは毎年好投手を擁して素晴らしいチームを作ってきている。

 甲子園への道は非常に厳しいというのは正直なところだろう。それでもそれぞれの夢を追い、可能性を求めている。市立橘や川崎北瀬谷綾瀬弥栄など指導者も熱心で夢を具体化できそうなだけの雰囲気を十分に感じさせてくれるチームが増えてきている。

(文:手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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