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頂点に立つ浦和学院を花咲徳栄が追い数校の強豪校が続く構図(埼玉)

2017.04.02

 現在の埼玉県の高校野球の勢力構図からすれば、信じられない感もあるが、かつて埼玉県は都市部としては珍しく公立王国だった。

私学校台頭への転機

 まず、戦前の中等野球時代は浦和中と川越中がリードしていた。戦後になっても熊谷と埼玉大宮をリーダーにしたような形で、その後は、埼玉大宮工や川越工川口工春日部工など公立工業高校がそれぞれ強い時代があった。さらには、上尾が甲子園で好試合を演じるなどして全国に「埼玉に上尾あり」ということで注目された。

 埼玉県内で私立校が甲子園出場を果たすのはなんと1985(昭和60)年まで待つことになる。この年のには秀明が、には立教(現立教新座)がそれぞれ初出場を果たす。これが、実はその後の私立校が台頭していく引き金となったのである。

 埼玉県の全国優勝は1968(昭和43)年春の埼玉大宮工と2013(平成25)年春の二度しかない。埼玉大宮工は初出場初優勝となったが、まさに快進撃だった。しかし、その埼玉大宮工も現在ではそれも一つの歴史という位置づけでしかなく、なかなか上位にまで残ることができず苦戦が続いている。浦和学院は、現在の埼玉県の雄と言っていい存在である。県内では圧倒的に強く、関東大会でも勝つのだが、甲子園ではなかなか勝ち切れないという時代もあった。しかし、ユニホームのリニューアルを機に、全国で勝てる浦和学院として再アピール。3年連続出場となった13年春に悲願を達成した。

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浦和学院ナイン(2016年秋季埼玉県大会 準々決勝より)

 浦和学院は、86年夏に私学勢としては立教に続いて初出場を果たすといきなりベスト4にまで残って強烈な印象を残した。鈴木 健(西武→ヤクルトなど)らを擁したスケールの大きな打線も看板だった。当初の浦和学院上尾で長年指揮を執ってきた野本 喜一郎監督がチームの柱を築き上げた。しかし、甲子園初出場を果たしながら、聖地では采配を揮うことなく体調を崩して他界した。その後、和田 昭二監督から現在の森 士監督に引き継がれている。今ではすっかり関東の強豪としてのたたずまいを備えている浦和学院。埼玉県内だけではなく、関東の各校に対しても強烈にプレッシャーを与えるまでになっている存在だ。

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現在の埼玉の勢力構図

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花咲徳栄・高橋 昂也(2016年夏の甲子園1回戦より)

 そのライバルとして競い合ってきたのが春日部共栄である。台頭してきたのもほぼ同時期だが、甲子園での実績ということでいえば先に決勝進出を果たして準優勝を果たした分だけ春日部共栄がリードしている感もあった。しかし、ここへ来て浦和学院も全国制覇を果たし、数字的にも浦和学院は春10回、夏12回出場で30勝21敗、優勝1回、ベスト4進出3回だ。これに対し春日部共栄は春2回に夏5回の10勝7敗で準優勝1回となっており、トータル的には浦和学院一歩リードともいえる。

 それよりも近年はこれに、03年のセンバツ準々決勝で東洋大姫路と延長15回引き分け、再試合も延長となり最後は痛恨の暴投で敗れたものの、その健闘が称えられた花咲徳栄が迫ってきている。甲子園出場実績としても春4回、夏3回と今世紀に入って20年も満たないうちに瞬く間に積み上げていっている。2015年夏からは3大会連続の甲子園出場を果たすなど、今や浦和学院との2強を形成しているといってもいいくらいである。03年時の福本 真史投手は明治大を卒業後に、恩師岩井 隆監督をアシストすべくコーチとして現在は母校にいる。

 また、地元では人気があるのが99年夏に甲子園出場を果たし、08年春には準優勝という実績をあげた聖望学園である。03年夏にもベスト8へ進出している。「生徒は皆、同じことばっかやっとったら飽きるのやから、飽きさせんように、いろんなこと考えとかないかんのや」という岡本 幹成監督。今の時代の生徒たちの考え方にあった指導方針が浸透しているともいえよう。

 この4校が今の埼玉県では、甲子園に近い存在と言えるのだが、それを追いかける形で花咲徳栄と同じ佐藤栄学園としては埼玉栄も健在だ。東北、九州国際大附などで甲子園準優勝の実績を作ったベテランの若生 正廣監督を招聘して虎視眈々と狙っている。

 また、08年10年に甲子園出場した本庄第一と、14年秋15年春に立て続けに県大会で準優勝を果たしている川越東なども追いかける。さらには、新しいところで女子校から共学化されて強化に努めている、女子ソフトボールの名門星野、女子バスケット部が実績のある山村学園浦和実をはじめとして西武台西武文理昌平狭山ヶ丘といった中堅私学勢も気を吐いている。新しいところでは、小松原から校名変更した叡明正智深谷武蔵越生獨協埼玉なども追随しようとしている。

 かつて県内をリードしていた公立勢としては、上尾の復活が待たれるところだが、かつて川越商時代に1度甲子園出場の実績がある市立川越も近年は安定して上位進出を果たす実力校だ。14年夏にも埼玉大会準優勝を果たしている。16年秋季県大会ではふじみ野が唯一ベスト8に残ったが、公立校ながらスポーツサイエンス科を設置しており、環境にもある程度は恵まれており、今後の伸長度は期待できそうだ。

 古豪と言われている熊谷商川越工など、かつて甲子園出場実績を誇る名門実業校も、OBでもある指導者がそれぞれ監督として就任しており、復活への地元の期待も厚い。また市立川口春日部東大宮東所沢商などの歴史と伝統を担う学校も期待は高い。新鋭校としては、八潮南や春季県大会優勝実績もある南稜15年夏の埼玉大会準優勝の白岡。その南稜で実績をあげた遠山 巧監督が異動した狭山清陵や施設の充実している大宮西大宮南といったところが、どんな戦いを示していくのかというところも、新しい勢力構図としては楽しみなところでもある。

(文:手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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