Column

狭山清陵(埼玉)「マネージャー心得」で戦力として一緒に戦う姿勢を作る

2018.04.11

 

女子マネージャー舞台は今日な戦力


狭山清陵野球部を支えるマネージャーの3名

 「女子マネージャーは、選手たちの練習の手伝いをするだけではない。しっかりとした戦力として考え、そのための扱いをしていくのだから、その覚悟のある生徒でないと務まらない。だから、そのためには厳しく接していきます」

 これは狭山清陵の遠山巧監督の指導理念の一つでもある。かつて、川口青陵を好チームに作り上げ、南稜では春季県大会で優勝して関東大会まで導いた実績もある。そして、その時からその指導方針はぶれていない。その一つとして、マネージャー教育を説いてきている。

 自身が、高校から一般入試手早稲田大へ進み、当時の野村徹監督の下に、積極的に野球を学ぶ姿勢を示してきた。そうした中で、大学野球のマネージャー(主務)の役割の重要性を実感した。そして、自らが志望した高校野球の指導者になっても、そのことを実行していくことを貫いていっている。だから、安易な気持ちでやろうとする女子マネージャーならば不要だということも徹底している。

 そんな遠山監督の下で、マネージャーとして高い評価を受けているのが狭山清陵の女子マネージャーの三人だ。新3年生となる豊田姫奈さん、上村茉奈さんと新2年生の斉藤彩夏さんだ。練習試合の1日、彼女たちの仕事ぶりを追いながらマネージャーとしての心得や考え方を聞いてみた

[page_break:天気予報から始まるマネージャーの一日]

天気予報から始まるマネージャーの一日


狭山清陵の貴重な気付きノートの一部

 狭山清陵のマネージャーの仕事は、朝一番に天気予報を確認して、その日の日没時刻や風力、湿度などをホワイトボードに記入するところから始まる。これは、ノックの終了時刻はもちろんのこと、効率よく練習を進めていくための大事な指針にもなるものだ。
 そして、とにかくよく動く。土日の練習試合ともなれば、自校グラウンドで行う場合は、相手校の迎え入れはもちろんのこと、観戦に訪れる父母や関係者には自校だけではなく相手校にも気を配らなくてはならない。さらには近所の野球好きまで、訪れた人には率先して挨拶を交わし、その人のそれぞれの立場に応じた対応を臨機応変に行っていく。これだけでも、学校の授業では学ぶことのできない社会勉強だろうなと感じさせてくれる。

 さらには、空いている時間を見つけては補食の準備や、バックネットのほころびを修繕したり、審判員などの食事を準備もしなくてはならない。それに試合で投げた投手のアイシングの準備やアクシデントがあれば、そのフォローにも走っていく。その一方で、試合中はBSOボードや得点盤にスコアを入れる作業もあれば、場合によっては試合のアナウンスもある。

 また、ベンチに入った者は試合のスコアも付けていくが、ただスコアをつけているだけではない。相手打者の前打席の打球方向を伝えることや、監督の指示を伝えることも大事な仕事だと心得ている。こうして1日フル稼働の彼女たちは、「チームの戦力として一緒に戦っていく仲間なのだ」という意識を非常に高く持っている。

 そんな彼女たちにマネージャーになった動機を聞いてみた。
 豊田さんは、「中学3年の時、夏の高校野球埼玉大会を見て高校野球に憧れを持った」ことがきっかけである。中学時代には剣道部だったという上村さんも、「甲子園大会などを見ていて、一つの夢に向かって一生懸命頑張る高校球児の姿を見て、自分もそんなチームにするために何かサポートしてみたい」と考えたのがきっかけだった。

 特に、彼女たちが入学したときは、1学年上にマネージャーが不在だったということもあって、早く仕事を覚えなくてはいけないというプレッシャーも強かった。とはいえ、豊田さんは、「入るまではスコアもまともにつけられませんでしたし、内野安打もわからなかった」そうだ。

 それでも、とにかく必死に勉強して、知識と実践による意識の向上とを積極的に進めていったことで、「責任を持つ」という自覚がいち早く芽生えたことに、この新チームからは、「最上級生としての責任感」はより大きくなっている。全体の部員も、同級生となる選手は新3年生は6人だけと、新2年生の11人に比べて半分ほどしかいない。そんなこともあって、チーム構成としてもどうしても新2年生中心になっていかざるを得ない。だからこそ、余計に言うべきことは言うという意識をしっかりと持っている。

 それは、チームとしては「急がせ役」と自認する上村さんも同じだ。だから自然に、マネージャーの立場としても、「常に先のことを考えていく、ということを最も意識している」ようになった。それでも、「選手たちがよりよく練習が出来るように、常に先のことを考えながらも、マネージャーとしては、もっと周囲に目を配っていかなくてはいけない」ということを自覚している。

[page_break:選手以上に厳しく、選手以上に勝ちたいという気持ちを持って]

選手以上に厳しく、選手以上に勝ちたいという気持ちを持って


監督と選手のつなぎ役としてしっかりとミーティングの監督の指示をメモに残す様子

 そんな1年先輩の姿を見てきている斉藤さんは、父親も元高校球児で兄も他校の野球部でいるという野球一家の中で育ってきている。だから、中学時代は豊田さんと同様にテニス部に所属していたが、「ずっと野球を見てきて育っていたので、夏の甲子園などを見ていたら、ベンチにいる女子マネ―ジャーに惹かれて、自分もそのような仕事をしたい」という気持ちを小学生時代から抱いていたそうだ。

 だから、自分自身は「選手たちとの関わりをよくしていき、よい理解者になっていきたい」という思いは強い。そして、そのためには、「夏の大会へ向けて、全員が気持ちよく挑めるような意識を作っていくために、自分が大人になってフォローしていく」という姿勢を持っている。

 こうしたマネージャーたちを遠山監督はどう評価しているのだろうか。
 「言いたいことはきちんというし、ボクの顔色を見ながら何かをするということもなく、自分の意見を持っていて、きちんと動けるところを評価している」と言う。とはいえ、マネージャーだからと言って特別扱いはしない。やれていないところがあったら、そこは厳しく叱っていく。それは、選手たちに対するのと同じ姿勢である。だから、マネージャーも成長できるし甘えは許されないという認識にもなるのだという。

 チームで宿題として与えられている『夢をかなえるための質問100(メンタルトレーニング)』は、感性を育てていく要素にもなっているというが、マネージャーたちもそれに取り組んでいる。そして、「全員が監督のような意識になれるチーム」を目指していくこと、そのためにマネージャーとしての立場からはっきりとモノを言うということを心掛けている。

 昨夏のチームは初戦で松山に大敗してしまった。しかし、秋季大会では西部地区予選で一つ勝ちあがり、代表決定戦まで進めた。敗れはしたものの強豪星野と競り合ったことで、チームとしても一つステップアップはした。しかし、斉藤さんは「気持ちの面で最後に差をつけられた。まだ、足りないことが多い」と感じている。豊田さんも、「一つ勝ったことで壁は乗り越えたけれども、チーム作りとしてはまだまだ完成していない状況での結果なので、もっと成長出来る」と認識している。

 そして上村さんは、「バッティングなどでも技術的にはまだ足りていないところも多くあるし、守備もミスが多いので。もう一度基本を見直していきながら上を目指していかなくてはいけない。チームの仲がいいのはいいけれども、言いたいことを持って言っていかれることも大事だ」と厳しく見つめている。

 冷静な目線と熱い思い。その両方を兼ね備えながら、チームの潤滑油でもあり刺激剤でもある存在としてのマネージャーだ。
 『マネージャー心得』にもあるように、「選手以上に厳しく、選手以上に勝ちたいという気持ち」を持って、「慣例で動くのではなく、必要性を感じて動くこと」を実践していくことを目指す。
 そしてマネージャーの役割として、「選手と監督とをつなぐ存在であること。選手からも監督からも信頼される存在であること」を認識しながら、彼女たちの戦いは続いていく。

文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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