Column

北海道地区記者・石川 加奈子氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5

2015.11.20

東海大四のセンバツ準Vで幕を明けた群雄割拠の1年

 今年の北海道は、東海大四センバツ快進撃で幕を明けた。
駒大苫小牧の甲子園連覇以来、10年ぶりに道民が熱狂し、多くの高校球児が刺激を受けた東海大四準優勝
興奮冷めやらぬまま突入した2015年のシーズンは、春季全道大会初戦で東海大四が敗退し、混沌とした群雄割拠の様相を呈した。道内各地で数多くの手に汗握る熱い戦いが繰り広げられた中、印象に残るベストゲームを挙げる。

5位:第97回南北海道大会準決勝 北照vs東海大四

川端 翔(北照)(2014年 秋季北海道大会にて)

春に続き、北照がセンバツ準Vの東海大四を撃破

 春夏連続甲子園出場を目指した東海大四の反撃はあと一歩及ばなかった。
3本塁打を放った北照に2点のリードを許して迎えた最終回に東海大四が絶好機をつかんだ。先頭・渡瀬 太揮(3年)が一、二塁間を破って出塁すると、相手失策と四球で無死満塁とし、北照に大きなプレッシャーをかけた。

 ここで就任1年目の北照竹内 昭文監督が必死の継投を試みた。左腕・管野 渉(3年)から右腕の山本 琉生(2年)にスイッチ。東海大四の4番・冨田 勇輝(3年)に押し出し四球を与えると、この日先発した後に一塁を守っていた左腕・川端 翔(3年)をすかさず再投入。
川端は5回に3連打を許していた左打者3人をピシャリと抑えて、見事期待に応えた。

 社会人のシダックスで指揮を執ったことのある竹内監督の采配で、春季全道大会1回戦に続き、センバツ甲子園準Vの東海大四に1点差勝利を飾った。

4位:秋季北海道大会準決勝 札幌第一vs駒大苫小牧

2015年秋季北海道大会 駒大苫小牧戦で
好投を見せる上出 拓真(札幌第一)投手

札幌第一が“スミ1”勝利。明暗分けた初回の攻防

 新チームが始動して間もない秋季大会は大味な試合が多い。
だが、実力校同士がぶつかったこのカードは、緊迫感あふれる投手戦になり、結果的には、1回の攻防が結果的に勝負を分けた。

 1回表、駒大苫小牧は一死二塁と先制機を迎えていた。ここで3番・若林 楽人(2年)の打球は遊撃へ。二走の外石 和也(2年)が好スタートを切ったが、札幌第一宮澤 晃汰遊撃手(1年)は思い切って三塁へ送球して間一髪アウトに。
もし、セーフになっていたら、流れは完全に駒大苫小牧に傾いていただろう。
ピンチの後にチャンスあり。その裏、札幌第一は先頭打者が四球を選んで好機を広げ、長門 功(2年)の適時二塁打で先制した。

 2回以降は、札幌第一上出 拓真主将(2年)と駒大苫小牧阿部 陽登(2年)のエース同士のプライドをかけた投げ合いに。“スミ1”という緊張感が、元来持っていた能力を引き出したのか。上出は3回以降無安打と駒大苫小牧打線を寄せ付けず、自身公式戦初の完封。
公式戦の中で一人の選手が殻を破って脱皮した瞬間だった。
試合レポート

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[page_break:3位:第97回北北海道大会2回戦 旭川実vs北見北斗 / 2位:第97回南北海道大会1回戦 北照vs札幌日大]

3位:第97回北北海道大会2回戦 旭川実vs北見北斗

手に汗握る終盤の攻防“ミラクル旭実”の真骨頂

 絶対に負けられないという3年生の強い思いが終盤の逆転に次ぐ逆転劇を生んだ。
1点を追う北見北斗は9回表、先頭打者・十亀 洸樹(3年)の本塁打で同点に追いつくと、さらに4番・浅井 岳(3年)もソロアーチを放ち、土壇場で逆転に成功。
だが、すんなり行かないのが夏の大会だ。
9回裏にさらなるドラマが待っていた。

 旭川実の先頭の2番・浅川 滉(3年)が三塁への内野安打で出塁。これが悪送球を誘い、無死三塁と同点のチャンスを作った。一死後、4番の池尻 一貴(3年)は空振り三振に倒れたものの、ワンバウンドしたボールをこばした相手捕手が一塁に送球する間に三走の浅川がスタート。振り逃げの間に本塁を陥れて同点に追いついた。
延長に入っても旭川実の勢いは衰えない。10回裏二死満塁で池尻が中前に弾き返してサヨナラ勝ち。
95年夏の甲子園で松山商鹿児島商銚子商を逆転勝ちして初出場で8強入りを果たした時に呼ばれた“ミラクル旭実”を思い出させる逆転劇だった。

2位:第97回南北海道大会1回戦 北照vs札幌日大

9回裏に待っていたまさかの結末

 予想もしなかった劇的な幕切れに、見ている者はみな呆気にとられたに違いない。
同点に追いついた直後の9回裏、守る札幌日大は二死三塁までこぎつけていた。ここで北照の3番・小泉 理久(3年)が打ち上げた打球は一塁前へ。札幌日大吉田 徹郎投手(3年)と伊瀬 大一塁手(3年)が突き出したグラブが交錯し、打球はグラブに当たってポトリと落ちた。記録は一塁への内野安打。
延長突入と思われた次の瞬間、サヨナラで試合終了となった。

 取られては取り返す。3度も追いつく粘り強さを発揮した札幌日大だったが、8回、9回と得点圏にいた走者が相手のけん制にひっかかった。チャンスをみすみす逃したことでツキに見放されたのか。9回裏に吉田が先頭打者に四球を与えて漂い始めた嫌なムードを払拭しきれなかった。
ミスで流れが変わる怖さを痛感する試合だった。

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[page_break:1位:第97回南北海道大会2回戦 北海vs駒大苫小牧]

1位:第97回南北海道大会2回戦 北海vs駒大苫小牧

伊藤 大海(駒大苫小牧)

駒大苫小牧・伊藤投手13回178球の熱投実らず

 試合前から好ゲームになる予感はあった。
春季全道大会決勝で顔を合わせた両者が、甲子園切符をかけてガチンコ勝負を挑むからだ。

 序盤は駒大苫小牧が流れをつかんだ。
1回に先制し、3回にも追加点。いずれも先頭打者が安打を放ち、次打者が送りバントを決め、タイムリーという理想的な点の取り方だった。守っては、エースで5番を打ち、主将を務める大黒柱の伊藤 大海(3年)が驚異的な精神力を見せる。2日前の札幌光星戦で右肩に死球を受けた影響を見せず、ピンチを切り抜けていく。
6回に3安打で同点に追いつかれた後には、勝ち越すまでは絶対にマウンドを下りない、何球でも投げてやるという気迫が伝わってきた。

 その思いは、5回から登板した北海の2番手・北海山本 樹(3年)も同じだっただろう。何度も得点圏に走者を背負いながら、要所で踏ん張る2人の投げ合いは、3年生最後の夏の意地の張り合いそのものだった。
延長13回表に力尽きたのは伊藤。二死から三塁打を許し、続く山本に初球を左前に運ばれた。178球の熱投は実らなかったが、見る者の心を打った。
両者を称える温かい拍手と声援はいつまでも鳴り止まなかった。

選考を終えて・・・

 ベストゲームを選ぶためにスコアブックをめくっていると、打球音、スタンドの歓声、ガッツボーズ、涙と様々な情景が脳裏によみがえってきた。

 特に、ベストゲームに挙げた駒大苫小牧の伊藤投手の投球は忘れられない。
2日前の試合で右肩に死球を受け、万全ではない状態で178球。将来の野球人生に響くのではないかとハラハラしながら見ていた。力投が報われず残酷な幕切れだと思う反面、試合が終わってホッとした。試合後の伊藤投手の表情には充実感があふれていた。だが、報道陣が去った後、チームメイトに声をかけられた瞬間、涙がボロボロこぼれた。
そんな光景を見ると、もらい泣きしそうになる。球児たちが流した涙は、この先の人生で絶対に生きるはず。そう信じている

 北海道は雪も降り始め、野球シーズンは終了。来季はどんなドラマが待っているのか楽しみだ。

(文・石川 加奈子


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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