Column

平沢大河、骨折でプレーできない鬱憤を晴らした夏の甲子園3本塁打

2015.08.27

 今夏の甲子園決勝を戦った仙台育英(宮城)。宮城大会でヒット3本だった今秋のドラフト候補・平沢 大河は、甲子園で3本のホームランを放つなど、存在感を示した。6月の東北大会で右足小指を骨折。ひと月、練習できない期間が続いたが、その時期を無駄にはせず、パワーが増したことで飛距離が伸びた。

 宮城大会の打率は低かったが、8打点をマーク。甲子園前に佐々木 順一朗監督から受けたアドバイスもあり、甲子園で輝きを放った。高校日本代表にも入り、金属バットから木製バットに握りかえても、レベルの高い大学生投手相手に連日の快打を披露する平沢 大河選手の6月から甲子園決勝までの軌跡を振り返っていく。

大会前まで骨折だったことを忘れさせるような大爆発

平沢 大河 (仙台育英)

 夏は1989年以来、26年ぶりの甲子園準優勝。仙台、宮城は仙台育英の躍進に沸いていた。テレビの視聴率は高く、新聞は飛ぶように売れた。21日、新大阪駅から東京経由で仙台駅に到着すると、駅構内では多くの市民が出迎えた。

「新幹線を降りていったら、『キャー』とか凄くて。警備員さんもいて。有名人になった気分でした。テレビで見る、韓流スターやハリウッドスターみたいで」と笑った平沢。大阪にいた選手たちは分からなかったが、杜の都では“育英フィーバー”が起こっていた。

 仙台を出発する時、「甲子園ではヒットを打てればいい。それだけです」と話していた平沢。それが、3個のホームランボールとともに凱旋となった。そのホームランが誕生するまでには骨折、不調など様々な出来事があった。

 6月5日、東北大会初戦。平沢は2回の第2打席で死球を受けた。ジャンプして避けたのだが、右足に投球が直撃。転がるようにうずくまり、足を引きずって一塁へ。「立っているのがやっと」というほどの痛みだったが、死球以降も試合に出場し続けた。8回にはタイムリーヒットを放ったが、チームは5対8で敗れた。学校に戻り、病院で検査をすると骨折が判明。右足小指に2本のヒビが入っていた。小指は腫れ上がり、サンダルで生活。骨がくっつくのを待つほかなかった。

 練習中は、超音波骨折治療器を患部に当て、足に負担がかからないエアロバイクやロープ登りが日課になった。練習試合中は、それらをこなしながら、寂しそうにグラウンドを見つめ、「早く、やりたいです」とこぼした。

 我慢しきれなかったのか、6月下旬には、サンダルのまま軽いノックを受け始めた。7月から本格的にチームに合流。ランニングは集団を外れて走ったが、それ以外は仲間とほぼ同じメニューをこなした。守備は動ける範囲が広がっていけばよかったが、問題は打撃に表れた。約一ヶ月、投手が投げる前から来るボールを打てなかったことで、感覚が鈍った。ティー打撃ですら、芯を外すことがあり、フリー打撃ではボールの下をこすることが多かった。


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[page_break:甲子園3本塁打を打つきっかけとなった佐々木監督からのアドバイス]

 そんな中、復帰戦となった7月4日の宮城大会前最後の練習試合では、大きなライトフライを打った次の打席でライトへ本塁打を放った。練習できない期間、佐々木 順一朗監督は「とにかく、太れ」と指令を出し、食事回数、量を増やした。仲間が練習試合をしている間も、平沢にとってはこれが練習とばかりにおにぎりやパンを頬張った。そして、肺活量を落とさないためのエアロバイクや足を使わずとも全身運動になるロープ登りといった、普段はできないトレーニングができたことで身体が変化した。

「身体が大きくなることだけを考えてやっていました。目的を持ってやれたのでよかったと思います。ロープは1日、10本も登りましたからね。バッティングがよくなると思ってやっていました。怪我をした後にはいいことしか起きないとも思っていました」

野球ができないもどかしさはあったが、落胆はせず、光を信じて取り組んだ。

 手応えをつかんで迎えた宮城大会だったが、17打数3安打で打率1割7分6厘。レギュラー選手は4割台が当たり前。3割5分を切る選手がいない中、その数字は目立った。しかし、打点はチーム最多タイの8。3本のヒット全てがタイムリーであり、犠牲フライも多かったからだ。

甲子園3本塁打を打つきっかけとなった佐々木監督からのアドバイス

平沢 大河 (仙台育英)

 宮城大会は7月21日に決勝が行われたため8月6日開幕の甲子園まで時間があった。この間、練習を十分にできたことがプラスになった。佐々木監督からは「バットが上から出て、上から打ち過ぎている。ラインで打つようにしなさい」と助言された。ピッチャーから投じられたボールの軌道に合わせてスイングするように心がけたことで「いい感じ。甲子園でも続けたいです」と感覚を取り戻した。1、2年生との間で行われた紅白戦では本塁打を放ち、甲子園に乗り込んだ。

 技術は戻ったのだが、大阪出発前から頭痛があった。大阪入り後も体調は悪く、「たぶん、初めて」という点滴を打った。なんとか、大会前に復調し、初戦明豊戦を迎えた。

 その初回、一死二塁でバックスクリーン右に先制2ランを放った。明豊の左腕エース・前田剛から高校通算20号。「甲子園ではヒットを打てればいい。それだけです」と話していたが、夏の甲子園初打席で、甲子園初アーチを描いた。2回戦滝川第二(兵庫)戦では5打数無安打、3回戦花巻東(岩手)戦では3打数無安打2四球とバットはピタリと止まったが、準々決勝秋田商(秋田)で再びチームに流れを引き寄せる一発を放つ。

 秋田商の左腕エース・成田翔の前に仙台育英打線は3回までノーヒット。4回も1番・佐藤将太、2番・青木玲磨が打ち取られた。ここで打席に平沢。カウント1−1から内角直球をフルスイングすると、打球はライトポール際へ。チーム初安打は先制ソロとなった。そして秋田商の最終回の猛追を振り切り、6対3で勝利。早実(西東京)との準決勝に駒を進めた。


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[page_break:2学年上の熊谷先輩を超える活躍を見せたい]

「早実は一番、注目されていたチーム。そういうチームに負けたくないと思った」

 4対0の4回、二死一、二塁で平沢は右中間に3ランを放った。今大会3本目となる本塁打。その直前の3回、二死満塁のピンチでは、「一発けん制」を成功させた。迎える打者は高校通算47本塁打を誇る4番・加藤 雅樹。一発逆転もある場面だった。
「初球のストライクの時、セカンドランナーを見て『刺せるな』と思いました。あの舞台で決まってよかった。ホームランより、気持ちよかったです。チームとして、勝ったなと思いました」

 1学年上の先輩の発案で練習していた、とっておきのプレーだった。投手・佐藤世那は打者に投げる雰囲気を出し、平沢はまるで忍者のように二塁ベースへ。佐藤の素早いけん制と平沢のタッチで二塁走者をアウトにしてみせた。

2学年上の熊谷先輩を超える活躍を見せたい

平沢 大河 (仙台育英)

 東海大相模(神奈川)との決勝では、初回に2点を先制されたが、その裏、二死からライト前にヒットを放った。3回の第二打席では二塁打を放ち、ホームに還った。平沢が悔やむのは、5回の一死二塁で入った第3打席。3対6と点差はあったが、5回表に佐藤がこの試合、初めてとなる三者凡退に抑え、流れが傾きかけていた。ここで平沢はファウルで粘ったのだが、最後はバットを振れず、見逃し三振。「振らなきゃいけないボールでした」

 6回に同点に追いついたが、9回、4点を失って敗れた。
「(東北勢の)次の準優勝はないと思います。関東や関西のチームとも遜色なくなってきていますから。自分たちが優勝できなかったのは、何だろう……。何かが足りなかったんですよね」

 約3週間のホテル生活と緊張感ある生活が続き、「家について落ち着きました」という。帰ってきた日は、父と大好きなウニを堪能。ウニ丼とウニの握りを腹いっぱい食べた。休む間もなく、U-18ベースボールワールドカップのため、大阪に向かった。日本一を目指した戦いから、世界一を目指す戦いに舞台を移す。

「ピッチャーのレベルが違うので、慣れていかないといけないと思っています。冬は木製バットを使って打ちますが、最近は金属バットばかりで打っていたので、まずは木製バットでしっかり練習したいです。(2年前、日本代表入りした)熊谷 敬宥さん(現立教大2年)にいい刺激をもらったので、敬宥さん以上の活躍をしたいです」

 連日、強化試合・壮行試合で快打を見せる平沢。本大会ではどんな活躍を見せるのか。平沢大河のパフォーマンスがますます見逃せない。

(文・高橋 昌江

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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