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【記録トリビア 監督勝利数編】 1位:高嶋仁監督、2位:前田三夫監督、3位:渡辺元智監督の名将を振り返る

2015.08.12

 球児に注目が集まる甲子園だが、やはり高校野球は指導者の存在なしでは語れない。今回は「監督勝利数」ランキングコラムをお届け!なかなか到達できない夏の甲子園で、圧倒的な勝利数を記録している監督がいる。今回は1位~3位の3人の名将に迫った。

選手と心を交わす指導を始めてから常勝チームを築いた高嶋仁監督

今後の動向が注目される高嶋仁監督(智辯和歌山)

 第1位はこの夏、去就が注目されている智辯和歌山の高嶋仁監督である。その勝利数37。選抜合わせての63勝は歴代最多である。高嶋監督は1963年夏に選手として甲子園出場。そこで味わった感動が、指導者になるきっかけとなる。そして日体大卒業後に智辯学園のコーチに。

 1972年に監督に就任するが、なかなか甲子園に行けなかった。3年間甲子園に行けず、辞表を出して、長崎に戻ろうと考えていた高嶋監督だが、当時の理事長に辞表を破り捨てられた。ちょうどそのころ、あまりの厳しさに選手が練習をボイコットする事件もあり、辞めるにはちょうど良いと考えていた高嶋監督。しかし当時の部長に選手たちになぜ厳しい練習を課しているのか、その思いを話した方が良いんじゃないかといわれて、選手を集めて話すことを決めた。

 高嶋監督は選手として甲子園に行ったときの感動、天理の様に毎年甲子園出場をして、プロにいくような選手が何人も現れるようなチームに勝つにはそのチームの数倍もしないといけないんだと話したところ、主将が「わかった、じゃあ監督についていく」と答えたという。この時、高嶋監督は指導が一方的になっていたことを反省。選手と心を通じ合うことが大事なんだと実感した。

 そして1976年選抜に初の甲子園出場を決める。ここから智辯学園は、天理とともに奈良を代表する強豪校と呼ばれるようになる。高嶋監督はその道筋を作った第一人者といっても過言ではないだろう。

 そして1980年に智辯和歌山に赴任すると、同好会状態から一気に叩き上げ、チームを強化していった。今では猛練習が有名な智辯和歌山だが、最初は逃げ出す有り様。選手が本気で取り組めるよう、強豪校と練習試合を組んで、大敗して悔しさを味わせながら、練習に向かわせるなど、選手の気持ちを動かす指導が多かった。

 そうやって実績を積み上げながら、全国でも結果を残すようになったのは、1993年夏から。それまで選抜と選手権を合わせて5連敗をしていたが、1回戦で強豪・東北に延長12回裏にサヨナラ勝ちを決め、智弁和歌山として初勝利を決めると、その夏はベスト16を果たし、そして1994年選抜で初優勝を果たす。1996年選抜も準優勝を決めるなど、春に強さを示していたが、1997年夏に甲子園優勝を決めてからは、2000年夏優勝2002年夏の選手権準優勝、2006年夏の選手権ベスト4と夏でも実績を残すようになる。

 智辯和歌山は猛練習で知られるチームだが、その中でも選手と心を通わすことを常に忘れない。高嶋監督は2008年~2009年の間に四国遍路を行ったが、そこで励ましの声をいただいたことで、肉体的にも、精神的にもきつい四国遍路を乗り越えたという経験を活かして、それからは選手にかける声にも工夫を凝らした。

 この夏、津商に敗れ、今後の去就について注目が集まっている。ただこのような終わり方では、しっかりと後任に引き継ぎができないと高嶋監督は考えているようだ。高校野球ファンからすれば、これほど偉大な監督には、有終の美で終わってほしいと思うファンが多いだろう。今後の動向が見逃せない。

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[page_break:徹底した土台作りを重視 多くのプロ選手を輩出した前田監督]

徹底した土台作りを重視 多くのプロ選手を輩出した前田監督

 高嶋仁監督に次いで勝ち星を挙げているのは30勝の前田監督だ。木更津中央高校出身(現・木更津総合)。木更津など内房といえば、気性が荒っぽいところはあるが、なぜか憎めない人の良さを感じさせる男性が多い地域だが、前田監督はまさに「瞬間湯沸かし器」。選手を叱咤激励をしながら、チームを引っ張ってきた。その前田監督が大事にするのは土台固め。

 1978年選抜に初の甲子園出場を果たすと、1980年選抜では準優勝を収め、着実に全国を代表する強豪校へステップアップしていった。またこの年のエースは、のちにプロで活躍した伊東昭光投手(元ヤクルト)もいた。そんな中、前田監督にとっての転機が訪れたのは、1983年選抜に、徳島池田に0対11で敗れたこと。この試合を見て、体格、パワーも何もかも違うと実感した前田監督は、一つの大敗が3合飯と筋力トレーニング、水泳と徹底的な土台固めを行うきっかけになる。現在も、前田監督はトレーニングについてはとても勉強熱心だ。専門のトレーナーが付き添いながらも、いかに高いパフォーマンスを発揮できるかを重点において、メニューを考案して選手に取り組ませている。 

トレーニング理論に長けた前田三夫監督(帝京)

 これらの取り組みが実を結び、1985年選抜では小林 昭則(元千葉ロッテ)を擁し、選抜準優勝。1987年選手権では2回戦の東北戦では芝草宇宙(元福岡ソフトバンク)がノーヒット・ノーランを達成するなど、甲子園ベスト4を決める。1989年夏吉岡雄二(元東北楽天)が投打で圧倒的なパフォーマンスを見せ、ついに初の甲子園優勝を決めると、その後も、1992年選抜優勝、1995年夏にも優勝するなど、実に夏優勝2回、選抜優勝1回、準優勝2回と栄光を味わった。

 その後も、甲子園で勝ち星を重ね、帝京の夏の30勝、春の21勝は前田監督がもたらしたものである。近年、横浜DeNAでクローザーで活躍する山崎康晃など毎年140キロ以上を投げる投手を揃える帝京。今も次のステージで活躍する選手を輩出する帝京ではあるが、そろそろ2011年夏以来の甲子園出場を願っているファンも多い。昭和~平成で名をはせてきた名将が勇退を決めている中、再び大型チームで甲子園に乗り込むことを期待している。

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[page_break:春夏連覇1回、昭和~平成の高校野球をリードした渡辺元智監督]

春夏連覇1回、昭和~平成の高校野球をリードした渡辺元智監督

今年で勇退を決めた渡辺元智監督(横浜)

 甲子園での監督勝利数3位は、この夏で惜しまれながら勇退を決めた渡辺監督。夏の通算28勝。この夏は神奈川大会決勝まで勝ち進んだが、とても昨秋はコールド負けしたとは思えないぐらいの完成度があるチームであった。

 渡辺監督のすごさは、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代とそれぞれ全国優勝を果たしていること。1973年選抜では、永川 英植(元ヤクルト)投手を擁し優勝を決めると、1980年選手権では愛甲猛投手(元中日)の投打にわたる活躍で、優勝を収める。しかし、そこから不遇の時期が続いた。1981年以降も甲子園出場をするが、ベスト8が一度もなかった。

 だが1998年、松坂大輔投手(福岡ソフトバンク)を擁し、連覇。2000年以降もベスト4が2回、ベスト8が2回、選抜でも優勝1回、準優勝1回と1990年以降から安定して勝ち星を収めるようになったのだ。

 横浜といえば、多くのプロ入り選手を輩出していること。素質のある選手の能力を引き出す指導。その指導は、高嶋監督同様、選手と心を通わせることを重要視し、人間味あふれる選手を育て上げ、今では大学、社会人、プロでも活躍する選手を輩出し続けている。この夏限りで渡辺監督の監督人生は終わったが、今後も、野球界に携わっていただきたい方だ。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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