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並外れた成長力で首脳陣を驚愕させる巨人期待の星・戸郷翔征。高校時代に2回起こった覚醒エピソード

2021.03.27

 3月26日、プロ野球が開幕。3連覇を狙う巨人はこの男の躍進が鍵を握っている。それがプロ3年目の戸郷 翔征聖心ウルスラ出身)だ。高校時代、2年夏に甲子園を経験。3年夏には甲子園出場を逃したものの、宮崎で開催された高校日本代表との壮行試合で好投を見せ、ドラフト6位指名を受け、巨人入り。

 6位ながら、プロ1年目からの歩みは若きエースそのもの。ルーキーから初勝利日本シリーズの登板を経験。プロ2年目は9勝。さらに日本シリーズでは敢闘賞を受賞した。そして高卒3年目ながら開幕第2戦目の先発が決まった。並外れた球速と成長力の原点はどこになるのか?

 今回は聖心ウルスラ時代の恩師である小田原 斉監督にお話を聞かせてもらい、当時のエピソードを語っていただいた。

まずは土台作りで飛躍のきっかけを作った

並外れた成長力で首脳陣を驚愕させる巨人期待の星・戸郷翔征。高校時代に2回起こった覚醒エピソード | 高校野球ドットコム
聖心ウルスラ出身の戸郷 翔征投手(巨人)

 戸郷の才能の高さは妻ヶ丘中時代から知れ渡っていた。それだけではなく、投手指導をメインにしている近藤部長は吸収力の高さを絶賛する。

 「教えたことをすぐに吸収できる能力はありました」

 あまり余る才能に加え、センスの高さ。その一方で、小田原監督は、体力面に不安があったと振り返る。
 「当時から体の線が細かったので、頑張ってプレーをしても体力面で1年間は思うような成長はできていなかったと思います。ですので、冬場はトレーニングはもちろん、食事を含めてきちんと行って、大きく成長していく必要がありました」

 入学当時の戸郷は同級生の中でもずば抜けた存在ではなく、2番手もしくは3番手くらいの立ち位置だった。それでも6月ごろにはAチームで登板させて対外試合デビュー。秋以降の戦いを見据えて経験をさせることができた。

 こうした順調なステップアップができたのは、練習の取り組む姿勢があったからこそ。
練習メニュー1つ1つを真面目にこなしていた。
 「やるべきことをコツコツ出来る。継続力のある選手でした」と小田原監督が評価する戸郷は、課題だった体力面も少しずつ鍛えられ、1年生の秋にはベンチ入り。5、6回ほどだが、試合で投げられるだけの体力を付けていた。

 そして迎えたオフシーズン、ここで戸郷は覚醒の時を迎えた。

 冬場に入ると、課題であった体力強化のためにトレーニングはもちろん、食事にも徹底的に指導していった小田原監督。
 指導を聞き入れ、戸郷の体格は大きく強くなっていく。そうして3月に入り、春の大会が近づくことにはピッチングが見違えるように変化していた。

 「球速が伸びるだけではなく、変化球にもキレが出てきたんです。そうしたら3月末からの春季大会では球速が5、6キロ伸びていて、140キロを超えるようになっていました。ですので、いい意味で冬場の成長はイメージしていた成長曲線ではなかったです」

 ここで1つ殻を破った戸郷は一気にチームのエース格まで駆け上がり、「夏はこの子を中心にチームを回す」と小田原監督のなかでも夏の戦い方は定まった。そして迎えた2017年の夏、聖心ウルスラは2年生エース・戸郷の活躍もあり、見事甲子園へ進む。

[page_break:プロに行きたい、活躍したいという気持ちに変えた甲子園と高校日本代表戦]

プロに行きたい、活躍したいという気持ちに変えた甲子園と高校日本代表戦

並外れた成長力で首脳陣を驚愕させる巨人期待の星・戸郷翔征。高校時代に2回起こった覚醒エピソード | 高校野球ドットコム
戸郷 翔征の恩師である小田原 斉監督

 宮崎代表として聖地へ乗り込むと、初戦の早稲田佐賀戦では序盤で主導権を握ると、戸郷は7回に2点を失いながらも11奪三振の好投で勝利。2回戦へ弾みを付けたが、続く聖光学院戦では一転してミスが目立ち、4対5で敗戦。戸郷自らも守備でミスをしてしまい、チームの勝利に貢献することが出来なかった。

 ただ甲子園を経験できたことは戸郷を大きく変えた。それはこんな話に込められている。
 「甲子園で彼の力を発揮できたと思います。ただ、新チームをスタートさせてからは『プロに行きたい』と自分の口ではっきりと話をするようになりましたね」

 プロ野球選手になる。この明確な目標をもつようになると、戸郷の練習態度はよりストイックになる。新たな球種の習得はもちろん、チームから与えられたメニュー以上の回数を自らこなしていくなど、さらなる高みを目指した。

 そんな戸郷を擁して迎えた春の県大会では見事優勝。九州大会では明豊の前に敗れ去ったが、戸郷はそこで143キロを計測するなど確かに存在感を発揮した。「チームも戸郷も思うような成長曲線で来ていました」と連覇に向けて準備は整っていた。

 だが他校から厳しいマークにあった戸郷は、エースとして夏の大会を投げて最速148キロを計測するも、準々決勝の日章学園の前に2対6で敗戦という結果に。指揮官・小田原監督の目には「力を発揮しましたが、抑えることが出来ず、打たれてしましましたね」というように見えていた。

 目標としてきたプロ野球選手という夢も、このような結果では厳しいかと思われたが、思わぬ出来事があった。その年は宮崎県でU18のアジア選手権が開催されることとなっていたため、練習試合として宮崎県選抜を発足することが決まったのだ。

 戸郷はメンバーに選出されると、試合まで休まず毎日チームの練習に参加。2か月間きっちりと準備を進めてきた。そして小田原監督も球場で見守る中、2番手で登板すると、自己最速を更新する149キロをマークするなど、5.1回を投げて、9奪三振、2失点という結果。甲子園を沸かせた同級生たちを前に堂々たるピッチングを披露した。

 「今となっては良いアピールになったと思います」という練習試合を終えてからも練習をしてドラフト会議を待った戸郷。そして10月25日、戸郷はジャイアンツから6位指名を受けて、目標だったプロ野球選手になったのだ。
 「もう少し上になるかと思ったのですが、とにかく呼ばれた瞬間は嬉しさというよりもほっとした方が大きかったですね」

 その後、プロ1年目はファームを中心に活躍すると、シーズン終盤で1軍デビューを果たし、クライマックスシリーズでも登板。そして昨シーズンは先発ローテーションの一角として好投。19試合に登板して9勝6敗で防御率2.76という結果で、新人特別賞を受賞した。

 3年目となり、ますますの活躍が期待される教え子に向けて、恩師・小田原監督からメッセージを最後にもらった。
 「まずは昨シーズンはローテーションを守って投げ抜いたことによく頑張ったねと言いたいです。ただまだ3年目の二十歳で若いので、さらに高みを目指して精進しなさいと伝えたいと思います」

 ほんの些細な目標で大きく変わることが時々あるが、戸郷はまさにそのタイプだろう。冬場の練習、そして聖地・甲子園が戸郷のNPBへの道を作り、持ち前の継続力で夢の世界に入り、今も活躍し続けている。シンデレラボーイと称された戸郷翔征の誕生には、確かな努力があることを再確認できた。

(記事=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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