Column

内川聖一「猛反対だった高卒プロ入り。そして今、息子に願っていること」【後編】

2017.12.22

  今年、2年ぶりの日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークス。そのチームをキャプテンとしてまとめたのが、内川 聖一選手だ。2000年秋、大分工の3年生だった内川は高校通算43本塁打を放つ大型ショートとして注目され、横浜ベイスターズからドラフト1位指名を受けプロ入り。NPB17年間で、通算打率.310、通算安打1975と大打者の仲間入りを果たした。今回は内川の高校時代を知るべく、内川の父である一寛さんにお話を伺った。

丸太打ちで磨いた高度なバッティング

内川聖一「猛反対だった高卒プロ入り。そして今、息子に願っていること」【後編】 | 高校野球ドットコム

丸太打ちについて解説する内川一寛さん

 秋の大会が終わると、スカウトの方も学校のグラウンドに訪れるようになりましたね。私がグラウンドでジョギングしていた時に、ダイエーホークススカウトの小川 一夫さん(現・福岡ソフトバンクホークス二軍監督)がきまして、挨拶してくれたんですよね。しばらくして、私の大学(法政大)の大先輩で、当時の横浜ベイスターズのスカウト・岩井 隆之さんから電話をいただきまして、「おたくにいる内川君は内川さんとどんな関係があるの?」と聞かれて、それで私の息子ですと答えたら、驚かれまして、そこから多くの球団のスカウトがグラウンドに訪れるようになりました。よく言われたのは線の細さですね。「もっと飯食べさせろ!」と言われまして。食べさせているんですけど、なかなか太らなかったですね。

 ※内川選手は弁当を2個用意し、朝練をした後に弁当を食べて、2個目の弁当を2限目までに食べ、そしてお昼休みの学食では定食やうどんを食べて、さらに購買で購入したパンを練習前に食べて、練習後の帰りではたこやきやうどんを食べ、帰宅したら晩御飯をたくさん食べるという生活をしていた。

 この時の聖一はホームランを量産するようになりましたし、ショートをやっていて、肩も強かったですし、足も速く、走塁勘もだいぶ良くなりました。半年のブランクがあっても、本塁打を打てるのはボールに当てる技術が優れていたからだと思います。打撃については私が教えました。構え方、バットの出し方などいろいろ教えました。

 私が基本とするのはレベルスイング。私が大学の現役時代、全く打てなくて悩んだときがありまして、その時、指導者に教えてもらった打撃理論が私の指導ベースとなっています。そのレベルスイングを作り上げるためにやったのが丸太打ちです。

 丸太打ちについて説明いたしますと、丸太を置いてそこにめがけてバットを振ります。これを真っすぐ打ち返すことが大事なのですが、手首が早く返ってもダメ、下からバットが出てしまうと、これも真っすぐ倒れません。レベルスイングでベストタイミングで丸太を打つと真っすぐ倒れるんです。

 若いときはいろいろやっていてもっと重い丸太を立ててやっていました。これは、インパクトの強さを鍛えるもので、手先では打てないので、下半身も使わないと打てません。そういう打撃練習をしながら、聖一の打撃は凄みが増していきましたね。ちなみに聖一と二遊間を組んだ川村 耕平(現・大分高副部長)は、大分のコーチとしてこのメニューを取り入れて、2016年に甲子園に行きました。あの時の大分高は打撃が良かったですよね。あれは丸太打ちの成果なんですよ。

[page_break:完全復活してから、スカウト垂涎の的に]

完全復活してから、スカウト垂涎の的に

内川聖一「猛反対だった高卒プロ入り。そして今、息子に願っていること」【後編】 | 高校野球ドットコム

内川聖一選手(福岡ソフトバンク)

 先ほども繰り返したように、聖一は病気もあって、出られない期間が多い中で、43本塁打を打ちましたけど、やっぱりコンタクト技術が高かったからだと思います。運ぶ打撃を得意としていて、一番素晴らしかったのは右方向への打撃技術ですね。ライト方向にも本塁打を打っていましたし、ヒットは右方向が一番多かったです。

 こうして期待をかけられて3年春の大会に臨んだのですが、県大会初戦敗退。九州地区予選は、選抜と同時並行でやっていますよね。スカウトの方は選抜の1回戦が終わるまでは見て、そこから県大会を見る予定だったので、どのスカウトにも「そこまで勝ってくださいね」と言われたんですけど、初戦で負けてしまって。1回戦敗退を聞いたスカウトから、「何で負けてしまったんですか!」といわれた記憶があります。

 そこからは聖一を見ようとスカウトは練習試合はもちろんですが、当時、大分では招待試合をやっていたので、招待試合が聖一のアピールの場となりました。相手は熊本の九州学院。スライダーが良い右投手でしたが、聖一は3安打を打って、そのうち2本が右方向へ打ったもの。当時184センチもある大型ショートでしたので、モノが違うという評価になっていました。

 最後の夏、聖一だけではなく、レベルスイングを身に付けた当時の選手たちはかなり打てるようになっていて、前半3点取られても、試合が終わってみれば10点取れるチームでした。最終的には投打のバランスが良いチームになっていました。大分大会は準優勝に終わりましたけど、甲子園に出場していれば1つ、2つは勝てたチームだったと思います。

大反対だった高卒でのプロ入り

 夏が終わるとスカウトの方々も来ていましたが、私はプロ入りに大反対でした。私だけではなく、家内も。それはなぜか?(私の)1学年上に江川 卓さん(元巨人)、島本 啓次郎さん(元巨人)、袴田 英利さん(元ロッテ)、ドラフト1位指名されながらも、拒否した金光 興二さん、植松 精一さん(元阪神)とプロ入りした先輩が多くいました。そんな先輩を間近で見ていましたからね。ちなみに家内とは大学時代から付き合っていて、家内もそういう人たちを見ていましたので、反対でした。

 プロは本当にすごい選手が行く場所です。まだ技術的にも、精神的にも幼い高校生はまだ早いと思っていました。なので聖一の目標は大学に行って、ジャパンのユニフォームを着ることでした。ちょうど知り合いがプロ野球のチケットを用意してくれて、私、家内、聖一の3人で[stadium]横浜スタジアム[/stadium]での巨人vs横浜戦を見ることになったんですよ。その帰りに聖一は「俺はこんな人がいる場所では怖くてプレーできない」と言って。12球団のスカウトさんが学校に来ていたので、スカウトの方に断ることになりました。

 それでもドラフト直前にプロ志望したんですよ。びっくりです。広島さん、横浜さんが1位指名してくれると言っていただきました。最終的には広島がプロに確実に行ける選手ではないと指名できないということで横浜ベイスターズ1位指名。

 プロでプレーすることに不安があった聖一がベイスターズ行きに傾いたのは、岩井さんが聖一に育成計画表を渡してくれたことですよね。1年目からの育成プランがしっかりと書かれていました。そういうところに聖一は安心したのでしょうね。そしてもしプロでダメだったら、聖一が契約金で大学に行くといったんです。そこまでいうならばと、プロへ送り出しました。

 今もプロで続けていますが、レギュラーに定着するまでいろいろな怪我、病気がありましたね。親としては活躍することよりも怪我したことが心配でなりません。WBCも3回経験(2009/2013/2017)させてもらいましたが、今ではだいぶ立場が変わり、リーダーとして人を引っ張る立場となりました。そこでの難しさを感じると思います。

 日本代表での聖一の戦いぶりを見ると、本当に心配でなりません。監督目線になるとミスがあれば、何やってんだ!と思いますけど、親目線になると、ヒットを打ったことよりも、ミスしたことの方が、頭に残りますよ。

 今でも活躍することよりも無事に終わってほしいと思うことが多いですよ。とにかく聖一には、健康でプレーできる日を多くしてもらいたいですね。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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