Column

福岡ソフトバンクホークス・石川柊太(都立総合工科出身)「大成をもたらした純朴さと素朴さ」

2017.11.21

 今年、94勝49敗と圧倒的な成績で、パ・リーグ優勝を決め、さらに日本シリーズ進出した福岡ソフトバンクホークス。その戦力としてブレイクしたのが石川 柊太投手だ。入団4年目の今年、150キロを超える速球と独特なまがりをするカーブを武器に、今年は先発・中継ぎを中心に34試合に登板。8勝3敗、防御率3.29と好成績を上げた。そんな石川投手の高校時代を知るべく、都立城東(1999年夏)を甲子園に導き、現在は都立総合工科有馬 信夫監督に当時の石川投手について聞いた。

入学当時から別格のストレートだった

福岡ソフトバンクホークス・石川柊太(都立総合工科出身)「大成をもたらした純朴さと素朴さ」 | 高校野球ドットコム

石川投手の恩師・有馬 信夫監督(都立総合工科)

「私が柊太(石川)を初めて見たのは入学当時だったのですが、柊太の代は結構投手が多かったのですが、柊太が潜在能力が高い投手だったことは覚えています。体もひょろひょろだったのですが、手が長いですし、ストレートが手元でグッと伸びる投手でした。ボールの質は同期と比べても別格でした。まだそのとき、私は監督ではなくて、当時監督だった千葉 智久先生に、『あいつ(石川)で甲子園いけるぞ』といったことは覚えています。

 有馬監督は、石川を甲子園に導く存在になると期待を込めて指導。コントロール、配球などを指導する。しかし当時は体も細く、故障がち。ボールは速くて、伸びがあってもコントロールがなかなか改善されない。下級生の時は結果を残せず、2年秋には登板直前に肘を痛め、9月から11月までは登板できない状態だった。

「当時は柊太以外に投手が結構いましたし、ほかの投手も頑張っていました。なので、柊太を無理させることなく、育成することができました。復帰してからは、柊太にエースになってほしかったのですが、あまり投げていなかったというのもあって、信頼はなかったですね。春から復帰し、投げていましたが、完投させるには不安がありました。もちろんエースは先発完投が理想でしたが、彼と同期に、芦田 大介という右のアンダースロー投手がおりました。芦田はコントロールが抜群に良く、メンタルも強い投手で、後ろを任せるには絶好の投手だったんです。だから石川がいけるところまでいって、芦田が後ろに投げるというパターンでしたね。」

 3年春の都大会(2009年)は石川は5試合中、3試合が先発登板。完投は1試合もない。ベスト8まで進み、チームとしてはてごたえをつかんでいた。

「投手も枚数いましたし、野手もすべてのポジションに、力のある選手が多くいました」

 甲子園に行くために臨んだ最後の夏。石川が先発して、芦田がリリーフするというパターンは春と代わりなかったが、石川は4回戦の高輪戦で完封勝利を挙げるなど、少しずつ信頼をつかんでいた。

[page_break:実は創価大で続けることは寝耳に水だった]

実は創価大で続けることは寝耳に水だった

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石川柊太投手(福岡ソフトバンクホークス)

 そして準々決勝では優勝候補として注目されていた二松学舎大附と対決。この試合に先発した石川は、2点の先制点をもらったが、3回裏4番京屋 陽に本塁打を打たれ逆転。強打の二松学舎大附に苦しみ、4回6安打3失点で降板した石川。

 その後、芦田が力投を見せ、接戦に持ち込んだ都立総合工科だが、9回裏にサヨナラ打を浴び、石川の夏はここで終わった。東東京では注目投手に上がり、その後の進路が注目された石川だったが、有馬監督には野球を続けないと告げていたという。

「だから放っておいていたんです。そしたらいつだったかは定かではないのですが、いきなり千葉先生の下に、創価大のコーチから「石川君は化ける可能性を持っているからうちで面倒をみたい」と連絡がきたんです。あいつ、私たちに告げず、創価大の練習会にいっていたんですよね」

 有馬監督にとっては寝耳に水の出来事だったが、こうして大学でも野球を続けることとなった石川。有馬監督は不安な点が多くあった。

「柊太は良い意味で、素朴。純粋さがある選手です。うちは規律が甘いですし、上下関係もあまりない。それで、アイドルが好きで、アニメが好きなように、当時からユニフォームを着なければ今時の高校生でした。そういう子が、一転して、体育会で4年間。プロどころか、まずは大学4年続けて、就職してくれればと思いましたよ」

 卒業後、石川の情報を聞いたのは4年春だった。

「大学に入ってしばらくあいつの情報は全くなかったですね。久しぶりに聞いたのは4年春。大学選手権に出場するという話を聞きまして、それで千葉先生が見に行ったんですよね。そこで好投してドラフト候補になって。その秋ですね、スカウトの宮田 善久さんと一緒にきまして、育成で獲りたいという話になりました。高校では思うように伸びなかったですけど、大学で才能が開花したのは、間違いなく、創価大の指導者のおかげだと思います。それでいて、あいつの人柄は全くすれていなかった。人間的なところもうまく引き出していただき、本当に感謝しています」

 2013年、福岡ソフトバンクから育成ドラフト1巡目を受けた石川。しかし入団2年間は怪我などで投げられない時期が続いた。そして入団3年目。ウエスタンリーグで好投を重ね、7月1日、支配下選手契約を結ぶ。背番号は「29」となった。一軍での登板はなかったが、9試合で4勝0敗、防御率3.00と、好成績を残した石川。オフに石川と再会した有馬監督は石川の人間的な成長に驚いたという。

[page_break:あいつは団結力があり強いチームを呼び込む人柄がある]

あいつは団結力があり強いチームを呼び込む人柄がある

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高校の同期達で

「柊太と同期だった子たちと一緒に焼き肉にいって、柊太には『1億稼げる投手になったら、ハワイに連れて行ってくれよな』といったのですが(笑) その時、柊太が来季、活躍するためにこういうことをしたいと真剣な面持ちで話しているんです。その姿を見て、プロになったなぁと感心させられたものです。高校生の時からそういう気持ちでやってくれればと思いましたけどね(笑)あの時はまだ野球に対しての欲求が薄かったので、その時と比べれば本当に変わったと実感しています」

 そして今年。4月4日の東北楽天戦で、プロ初登板を果たした石川は、5月31日の中日ドラゴンズ戦でプロ初先発・初勝利を達成。その後、8勝3敗と1シーズン通して活躍を見せた。有馬監督に取材したときは後半戦の途中。有馬監督は後半戦でどう持ちこたえるかをカギと話していた。

「あいつにも言ったのですが、打たれた後の試合や、自分にとって不利な状況になったときにどう持ちこたえるかが大事だよと話をしていました」

 石川は後半戦になっても、ピッチングのクオリティが落ちることなく、先発・中継ぎで好投を続け、そしてCSシリーズでもベンチ入りし、中継ぎとして登板。日本シリーズでもベンチ入りを果たした。まさにプロ野球選手として大きく躍進した1年だった。有馬監督は石川の変わりようを見てプロになったと実感したが、高校時代から変わらなかったことがある。それが「純朴さ」と「素朴さ」だ。

「野球選手としてはプロになりましたが、人間的なところは全く変わっておらず、本当に安心しました。振り返れば、柊太は本当に恵まれた奴というか、良い環境でやれているですよね。

 ソフトバンクでもチームメイトと一緒に仲良さそうにしているのが伝わるじゃないですか。柊太は、高校時代から好かれる人柄でしたし、チーム自体もとても仲が良かった。恵まれた環境でやれているというのは、あいつの人柄が呼び込んでいるかもしれませんね」

 だから教え子を見て思うのだ。一流で活躍するには「性格」が重要だと。

「これは柊太に限った話ではないですが、私が都立城東で甲子園にいった時のチームは本当に仲が良かった。今、率いる都立総合工科も、今年の夏は5回戦までいきました。このチームは新チーム当時、史上最弱というほど力がないチームでしたが、選手同士の仲が良く思いやりがあって団結力があった。強いチームになるためにも、強い選手になるためにも、『性格』は本当に大事だと柊太を見て思います」

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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