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小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「プロでの成功を確信したエピソード」【後編】

2017.04.03

■前編:「誠司にキャッチャーをやらせた理由」から読む

 先月まで開催されたWBCで、一躍時の人となった小林誠司選手。4月に入り、今度は巨人の正捕手として、2014年以来のリーグ優勝を目指す。後編では、小林選手がもっと好きになる感動的なエピソードを紹介します!

ピッチャーが投げやすい捕手になるために

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「プロでの成功を確信したエピソード」【後編】 | 高校野球ドットコム

中井 哲之監督(広陵)

 まさしくゼロからの出発でしたが、強引にでも気持ちを切り替え、キャッチャーというポジションに正面から向き合おうとする姿勢はすぐに伝わってきました。ワンバウンドを止める技術も練習を重ねるごとにぐんぐん上達していきましたし、最初は大きかった送球モーションもキャッチャーらしくコンパクトになっていった。コンバートしてからそう時間がたたないうちに次チームの正捕手候補になっていました。

 次チームのエースと目されていた野村 祐輔が投げやすいと思えるキャッチャーになるべく、コミュニケーションを図ろうとする意識がものすごく強かったことも忘れられません。寮で食事をする際も祐輔の横か前には必ず誠司がいたし、お風呂に入るのも必ず一緒。グラウンドでもいつも二人で何かを話し合っていた。よく「お前らいつも一緒で気持ち悪いのう」なんて言ってましたが、祐輔が「誠司が一番投げやすいです」と話していたのを聞いて、なるほどなぁと。ピッチャーを理解しようとする姿勢がこれでもかと伝わってきましたね。

 誠司の性格ですか?まじめで優しいけども頑固。厳しいけども優しい。見た目はあんな爽やかな風貌をしていますが、芯は強いし、ぶれない男です。だけどキャッチャーとしてはピッチャーの気持ちを優先することにひたすら徹していました。祐輔はマイペースな男ですし、典型的なピッチャー気質。誠司が大人になって、自分を時には殺しながら、時にはおだて、祐輔のわがままな部分もすべて受け止めていた。こういうことは、投手が先輩ならばできても、同学年同志のバッテリーだとなかなかできないことなんです。

小林 誠司が備えていた素晴らしき無形の力

 マウンドでピッチャーに声をかける場面においても彼は相手に響く声をかけられる男でした。ピッチャーにはいろんなタイプがあって、「大丈夫だ!」と声をかけると大丈夫じゃなくなるタイプもいれば、「頑張れ!」といわれると頑張れなくなるタイプもいる。「打たれてしまえ!」というと抑えるタイプもいれば、「おまえが打たれるわけがない」と言うといい球を投げられるタイプがいたりする。

 そのタイプは十人十色といっていい。でも誠司はピッチャーの性格、気質を踏まえた上で、そのタイプに合わせたアドバイスを送ることができるキャッチャーだった。17年くらいしか生きていない高校生が普通にできることではないんです。これは技術ではない部分における彼の長けた「能力」であり、キャッチャーとしての「適性」ともいえる要素でもある。その無形の力は私の想像のはるか上をいっていました。彼が大学、社会人でも成長を続け、プロ野球選手になることができた最大の要因はここにあると私は思っています。

[page_break:ドラフト直後に確信した教え子の成功]

 そんな男ですから、最上級生になってからは、たとえどれだけ打てなくても、正捕手の座からはずすことは考えられませんでした。9番を打つことが多く、送りバントばかりしているような選手でしたが、誠司には「打たんでいいからとにかくしっかり守っとけ!」とずっと言っていた気がします。そして、彼はぼくの言いつけをしっかり守ってましたね。ぜんぜん打たなかったですから(笑)。

ドラフト直後に確信した教え子の成功

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「プロでの成功を確信したエピソード」【後編】 | 高校野球ドットコム

小林 誠司(読売ジャイアンツ)

 彼の欠点を挙げるとしたら、「負けたくない!」「やってやる!」という気持ちは人一倍持っているのに、そういった闘志を表に出すのが下手だった点でしょうか。はたからみたら、元気がないように映るキャッチャーだったんです。声も小さく、通りにくい。野手にきちんと伝わらないことも多かったので、「練習はいいからおまえは三塁側のベンチの上でずっと声出しとけ!」と命じたことが数え切れないほどありました。

 三塁側のベンチの上で応援団のように腰を反らせながら「ありがとうございます!」「おはようございます!」「失礼します!」「ワンアウト!ツーアウト!」といった言葉を延々と叫んでいた彼の姿を昨日のことのように思い出します。

 4年前の秋、ドラフト1位での巨人入団が決まると、彼は挨拶をするために、すぐに母校であるこの学校のグラウンドにやってきました。「せっかくなので選手たちになにか話してくれや」と頼んだところ、スーツにネクタイ姿の誠司は「先生、例のところでいいですか?」という。「おお」と伝えると誠司は三塁ベンチの上に上がり革靴を脱ぎ、その靴を揃え、昔同様の応援団風の姿勢を取り、選手たちに向かってこう叫んだんです。「こんばんは!小林 誠司です!ぼくの原点はこの三塁側のベンチの上です!この学校で中井先生に鍛えていただいて本当によかったです!広島広陵高校の後輩に負けないよう、ぼくもプロの世界で一生懸命頑張ります!」と。それはもうびっくりするくらいの大きな声でした。

 普通、後輩たちの前だともっとかっこつけたくなるものじゃないですか?巨人のドラフト1位なわけですから。でも誠司は「ドラフト1位」というフレーズすら使わなかった。24歳の男が17,8歳の後輩に向かってなかなかできることじゃないですよ。私はその光景を見て、鳥肌が立つと同時に、涙が止まりませんでした。選手たちの多くも目頭を熱くしていました。

 私は確信しましたね。この気持ちがあれば、彼はどんなことをしてでもプロの世界でご飯を食べられる男になると。そして野球を辞めた後でも、社会人としてきちんとご飯が食べられる人間になるなと。私はいつだって彼の応援団。周りの人間をそういう気持ちにさせるところも小林 誠司の凄さなんです。

 誠司へのメッセージですか?日本代表メンバーに選ばれたことで、なかなか経験できない、素晴らしい世界が待っていると思います。自分に自信を持って、思い切ってプレーしてもらいたいですね。そしてまた落ち着いたら、ぜひ母校に足を運び、顔を見せてください。楽しみに待っています。

(取材=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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