成瀬 善久投手(東京ヤクルト)が語る「配球論」
今回はプロで勝てるための配球の考え方を語っていただきます。よく厳しいコースに投げることが大切だといわれますが、勝つためにはそれだけでは難しいと成瀬投手は説明します。ではどんなことが必要なのでしょうか。
コントロールを意識するようになったのは生きる道の一つだったから
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――高校生になってからコントロールを意識するようになったのは、成瀬投手にとって生きる道のひとつだったからですか?
成瀬 善久投手(以下「成瀬」) そうですね。中学校まで遊びで、ゲーセンでストラックアウトをやっていました。当時は球の速さで勝負していましたけど、コントロールにも自信があるつもりでしたね。
――高校に入ってコントロールにさらに磨きをかけた、と?
成瀬 もっとコントロールが必要になってきたということです。中学校までは配球うんぬんより、球の速いピッチャーが勝てたり、大会で上に行けるということがありました。軟式ボールだったので、なかなか前に飛ばないという状況もあったので。高校では硬式なので、芯に当たったら遠くまで飛びます。詰まってもホームランにされるときもあるので、少しの投げミスもダメなんじゃないかと意識しました。
――コントロールを磨くためにどんな練習をしましたか?
成瀬 ベース板にボールを置いて、投げたりしましたね。でも実際にバッターが立って、そのときにいかに投げられるかが勝負だと思います。今もそうなんですけど、ブルペンではストライクに投げるストレート、変化球を意識しつつも、コースをひとつ外してストライクからボールに投げる変化球まで練習しなければと考えています。試合でいざ「ここはストライクからボールになる球を見せたいな」というとき、その練習が役立つので。ボール1個分の出し入れまでやっているつもりです。
――成瀬投手はストライクゾーンを何分割に考えて投げていますか?
成瀬 分割はしていないです。低めがあれば高めもあるし、インコースがあればアウトコースもあると思っているので。そこを最大限に利用すれば、9分割で十分だと思っています。ただ、それ以上にあと半分ずつ内と外、さらに変化球の曲がる部分も考えたら、全体的に半分ずつくらいは広げてもいいと思います。
審判に手を挙げさせるか、挙げさせないかというくらいのコースに、1球で勝負できるか
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――細かいですね。
成瀬 あくまでもイメージは、ですよ。でもプロでも、ど真ん中に投げても打ち損じるバッターがいれば、見逃すバッターもいる。逆にいいコースに投げたのに、打たれることもあります。
僕はそれが野球だと思っているからこそ、あまり考えすぎて、際どいコースばかりに投げるのがすごくいいことだとは思いません。それより2ストライクに追い込んで、審判に手を挙げさせるか、挙げさせないかというくらいのコースに、1球でいかに勝負できるかが大事。その球が決まらずにボールになると、次の球がちょっと中に入ってきたりするので。
――そういう意識は高校からですか?
成瀬 いや、プロに入ってからですね。高校のときは自信があったので、厳しく投げられると思っていました。プロにはいろんなバッターがいるから、どこにどの球を投げるのが正しいか、間違いかがわからなくて。たとえば、いい球が行って打たれることがあれば、悪い球が行って打ち損じる場合もある。
――プロでも打ち損じは少なくないですよね。
成瀬 それがあっての野球だなと思い始めてから、自分が有利なカウントのときに、いかに1球で決められるかと考えるようになりました。それでピッチングがだいぶ変わりましたね。なぜなら、バッターもそこを意識しないといけないから。かつ、「ほかのコースにも手を出さなくてはいけない」という状況を相手につくらせるのが、プロだと思ったので。
――プロはすごいことを考えていますね。
成瀬 そうじゃないと、勝てないのかなと思います。高校野球は一発勝負だからこそ、勝負どころではガンガン攻めたりします。プロは年間通して戦うので、エサをまかなければいけない部分も出てくる。いまここで打たれたけど、もう1球同じコースに投げたときに打たれるかはわからないし。心理的に、「いま打ったから、もうここはないだろう」と思って、ほかのコースを張られるパターンもあるので。それをこっちも読まないといけないし、キャッチャーも読みながら配球しないといけないのがプロの世界です。
第3回は横浜高校で学んだことが、そのままプロの世界で生きていることを語っていただきます。お楽しみに!
(文・中島 大輔)
これまでの記事は以下から
「コントロールの良い投手の条件とは?」