Column

森実利トレーナーに聞く  ベースボールのハイパフォーマンスを引き出すトレーニング

2014.03.25

 筋力を増やしたい。体を大きくしたいなど、様々な目的を持ってトレーニングを行う高校球児たちは多い。そんな中で、意外にも見落とされているのが、『パフォーマンスを向上させるため』という原点に立ち返ったトレーニングだ。
 今回は、ベースボールにおけるハイパフォーマンスを引き出すためのトレーニングを、プロ野球選手やオリンピック選手など、100名を超えるトップアスリートを指導してきた森 実利トレーナーに伺いました。

ハイパフォーマンスを引き出す全12メニューのまとめ

1・ドルフィン
うつ伏せの状態から脚を反対側にねじる。この時、肩が地面がから浮かないようにしよう。

2・チェストオープナー
四つん這いの状態から、頭上の肘を見ながら上半身をねじろう。

3・クラウチングハムストレッチ
クラウンチングスタートの体勢から前脚のももを伸ばそう。

4・ランジツイスト
踏み込んだ足の方向へ上半身をひねる。この時 顔は前を向いたままにしよう。

5・バックランジツイスト
上半身はそのままで脚を後ろ側にひねろう。

6・バックランジ
膝と股関節を少し曲げて手を顔の前で組む。脚を前に戻す時、体が上がらないように注意しよう。

7・オーバーヘッドスクワット
下半身に溜めた力を上半身に上手く伝えることを意識しよう。

8・キャメルプッシュ
肩・肘を痛めている選手は無理して行わないようにしよう。

9・スーパーマンプッシュ
全く動いていない状態(うつ伏せ)から体を動かすエクササイズ。

10・ワンレッグヒップリフト(ペットボトルシャッフル)
骨盤を上げて腹筋を意識しながら肘をまっすぐ伸ばし、素早く小刻みにペットボトルを振ろう。片足を上げた状態でも行おう。

11・プローンブリッジ
両足を地面に着けて10秒キープ。片足を上げて5秒キープを左右それぞれ行おう。

12・サイドプランク(ペットボトルシャッフル)
横向きに寝た状態から腰を浮かせ、上側の腕を素早く振る。可能であれば、上側の脚を浮かせることでさらに負荷をかけよう。

 <次のページでは、森トレーナーがバランス・スピード・コンディションのメニューを解説します!>

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[page_break:バランスメニューの解説]

バランスメニューの解説

森 実利トレーナー

――森トレーナーが考えるハイパフォーマンスを引き出すトレーニングとはどのようなものでしょうか?

森実利トレーナー(以下「森」) 「トレーニング」と一口に言っても、負荷をかけて筋肉をつけるという類のものではありません。関節の動きをよくして、内臓を機能的に動かして、神経バランスを整える。それを行うことで動きの連動性と体軸を確保することができます。つまり、一人ひとりが持つ能力をフルに近い形で、しかも持続的に発揮できる状態を作り上げるトレーニングです。一般的に言われている「ファンクショナルトレーニング」に近いんですけど、あれはかなり動きにフォーカスしたもの。今回指導するトレーニングではそれよりも体の内奥、内臓、神経、関節、そして筋肉と、“動きの根本的な部分”を整えることを主眼としています。

――鍛える、というより整える、というイメージでしょうか。

 そうとらえることもできると思います。身体の土台をしっかりと作るということです。この土台が崩れたまま筋肉を増やしても、100%パフォーマンスにはつながりません。逆に土台がしっかりできあがっていれば、よりパフォーマンスが上がりやすくなる。しかも筋肉だけでなく、内臓、神経、関節も連動した効率的な動きになるので、ケガもしにくくなると思います。

――それは、具体的なメニューはどのようなものですか?

 今回は野球というスポーツの特性を考えて、バランス、スピード、コンディショニングという3種類のテーマを設けました。まずバランスメニューでは、あえてアンバランスな状態から動くことで無意識なうちに生じている身体の歪み=クセを取り除きます。次にスピードメニューでは、主に「しっかり着地して、しっかり蹴る」という連動性を意識づけるように組まれています。最後のコンディショニングメニューは、ストレッチの前段階、「準備の準備」ともいえるエクササイズです。これは最近アメリカなどで聞かれる「筋膜リリース」や「プレウォームアップ」に近いものですね。

バランストレーニング

――では、バランスメニューから具体的に解説いただいてもよろしいでしょうか。

 身体のバランスがよくなれば、それだけ効果的に動けるようになりますから、パフォーマンスが向上します。しかし、人間は無意識のうちにバランスを崩したまま生活しているんです。たとえば両足が接地している状態で、片足ずつ五分五分のバランスを取れている人はまずいない。必ず左右どちらかに体重が偏っているはずです。地面が固くて安定しているからバランスが崩れていても問題ないんですね。日常では問題ないですが、一方で気づかぬうちにバランスが歪んでいっています。その歪みは人それぞれなんですが、その歪み=クセを取り除いてあげようというのがバランスメニューです。

――そこであえてアンバランスにする、と。

 そうです。バランスのクセを取り除くには、不安定な状態を作って「バランスをとろう」と神経を働かせてあげればいい。神経バランスをフラットにして、クセを取り除いてから筋力トレーニングに臨めば、正しいバランスで筋肉もつく。とても効率的な体になります。

 具体的なメニューですが、
「ドッグバード」は四つん這いになって、右手と左足の同時上げ、左手と右足の同時上げを繰り返します。
「ハムストリングスタッチ」は片足で立つ動作を加えつつ地面をタッチする。片足状態でバランスを保とうとする行為は、日常生活ではあまりないのでバランス機能向上のためのエクササイズとして有効です。
「ワンレッグランニング」は、片足状態でランニングの動きを行います。よりランニングの動作に近づけてバランスを調整します。
「ワンハンドローテーション」は腕立て伏せの状態から、片手で体重を支えながら体をひねる。胸、骨盤のひねり動作が入ります。普段、骨盤はなかなか動かさないので、これをやって動かしやすくしておくとパフォーマンス向上につながります。

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[page_break:スピード、コンディショニングメニューの解説]

スピード、コンディショニングメニューの解説

スピードトレーニング

――次にスピードメニューの解説をお願いします。

 「スピード」と聞くとタイムなどと結びつけがちです。が、このメニューはその前段階のもので、いつでも何本でもハイスピードを出せる身体の動きを覚えるためのものです。そのためには、着地からスムーズにパワーを体に伝えスピードに乗る「バランス」と「連動性」が必要になります。このバランスと連動性を習得した結果が、最終的にタイムに繋がってきます。

 具体的なメニューですが、
「ハムストリングス」はスキップしながら足を高く上げ「前に踏み出す」意識を強めるために行います。

「バックタッチ」は逆に「足を引く」意識を強めるために行います。走る際の足の動作は、まず足を前に出した後に必ず引きます。この引きの部分を意識することで足の回転数が上がってくるのです。

「クロスタッチ」はキックした後の着地がポイント。片脚で臀部、腰回りの筋肉をしっかり意識して着地します。このしっかりした着地が次の動作に大きく響く。つまりスピードに乗れるかどうかにかかわってきます。「なぜヨコにステップするの?」と疑問に思われるかもしれませんね。じつは脚はタテには動かないんです。脚の付け根にある股関節は「球関節」といって回転する作りになっています。つまり、走る時は厳密にいうと両脚を「回旋」させながら進んでいる。少し横にふくらむようにして脚は出るんですね。その回旋力をつけるには、ヨコにステップした方が有効なのです。

「ダッシュ&バック」は、野球の守備でいう切り返しやベースランニングなど、急停止、急発進する場面に通じてきます。これも動きの連動性を確認するためのメニュー。
「ダッシュ&ジャンプ」も野球に通ずる動作であると同時に、ジャンプという負荷を入れることでパワーを養います。しっかり着地してしっかり蹴れるかどうかがカギです。バランスが崩れた着地をすると、体勢を立て直すぶんスピードにロスが生じますから。

――では最後にコンディショニングメニューの解説をお願いします。

コンディショニングトレーニング

 勘違いしないでいただきたいのは、ストレッチとはまた違う効果があるということです。「魚肉ソーセージ」を例に挙げるとわかりやすいかもしれません。ソーセージ部分が筋肉だとすると、フィルムが筋膜。ストレッチはこのうち、ソーセージ部分だけを伸ばすものです。ですが、フィルムに対してもケアは必要なんです。放っておくと、筋肉と筋膜が癒着して硬まってしまう。筋膜を、ローラーやボールをつかって筋肉から剥がすのがコンディショングのメニューです。そうすることでより体は柔らかくなり、機能的になります。これを準備体操の前にやれば「準備の準備」になりますし、練習後にやれば「次の日の準備」になります。続けることで毎日アベレージ以上のパフォーマンスが発揮できると考えてください。野球のボールだと少し硬すぎるので、ソフトボールやテニスの硬式球がオススメです。

 具体的に言いますと、
「膝下にボールを置く」のはストレッチをするのが難しい箇所というのもあります。
「骨盤の下にボールを置く」のは、骨盤を伸ばすと同時に、仙腸関節をほぐしてあげる。仙腸関節は腰痛の原因にもなる関節で、ほとんどの方は動かさないので固まっています。ストレッチしにくい部分ですし、そこをほぐすことでパフォーマンス向上に加え疲労しにくい体になります。
「片足ずつボールを踏んでスクワット」をしたのは、骨盤の高さを平行にすることで、歪みを解消するためです。骨盤が歪んでいると疲労が蓄積しやすいので、疲れやすい体の選手には有効ですよ。

――初めて見る! というメニューは少ないですが、どのような効果、意図があるかを頭に入れながら取り組むことがたいせつですね。

 はい。たとえばスピードメニューの「バックタッチ」は、ちゃんと意図を理解してやれば、そんなに早く前には進まないはずです。ストレッチでもなんでもそうですが、最初はマネることから始めていいと思います。まずは続ける環境を整えることが最優先。ダイナミック・トレーニングは時間をかけて1回ですますのではなく、毎日少しずつでも続けることの方が重要です。楽しみながら習慣づけてもらえれば嬉しいですね。

――トレーニングはパフォーマンス向上のために行うもの。その前提に立ち返った、とても興味深いお話でした。

 これまで筋力トレーニングはしてきたけど、それ以外のプラスアルファにもトライしてみたいと思っている選手も多いかと思います。そういう方にはぜひ一度試してもらいたいですね。最初に述べましたように、効果を実感しやすいと思いますので。

――ありがとうございました!

(インタビュー・伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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