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【帽子のつばに書いた文字に込められた想い】 沖縄県立真和志高校野球部三年・譜久村 誠悟投手

2013.11.26

【帽子のつばに書いた文字に込められた想い】 沖縄県立真和志高校野球部三年・譜久村 誠悟投手

 春季県大会で3試合連続完封を含む6試合に登板、51回1/3イニングを投げ防御率は0.53。
 
最後の夏は準決勝沖縄尚学に敗れるまでの全5試合に登板し、45回2/3イニングを投げて失点率0.99(失点5)、防御率はなんと0.40(自責点2)を記録した真和志高校の譜久村 誠悟
 
2013年、そんな脚光を浴びたエースの帽子のつばには、様々なドラマとそれを通して得た想いが言葉として綴られていた。

高校野球コラム 「帽子に込めた球児達の想い」

皆に感謝・夢・絆・躍進

県立真和志 譜久村 誠悟投手

【皆に感謝】

 譜久村が野球を始めたのは小学1年生の頃。そこで皆に感謝することを教わった。
 
中学進学後は北谷ボーイズへの道を選ぶ。そこで後にバッテリーを組むことになる佐喜眞 拓哉らと会った譜久村は、1年生の冬に行われたボーイズリーグ交流大会で、2008年ボーイズ初となる春季・選手権・ジャイアンツカップの三冠制覇を成し遂げたオール枚方ボーイズ戦にリリーフとして登板。新チームとはいえ、全国屈指の強豪を相手に2回途中からマウンドへ上り、無失点に抑えてチームを勝利に導いたことで自信を得る。

 
2年生での九州大会二回戦、マウンドを預かっていた譜久村は5対2とリードしている最終回に、ひとつの四球から2点を奪われ降板。チームは逆転負けを喫してしまった。この敗戦で、先輩たちや親、応援してくれる人に対して期待を裏切ってしまったという想いが生まれる。だが、その想いこそが彼をより強くしていった。その根底にあったのも「皆に感謝」の四文字だ。以降、最上級生になった譜久村は、無敗のまま翌年の九州大会を制覇するまでになっていた。

【夢】

 

中学1年の夏、譜久村はある試合を観戦していた。選抜を制覇した東浜 巨率いる沖縄尚学浦添商の決勝戦。そこで沖縄尚学の前に立ちはだかり、春夏連覇の夢を絶ったのが浦添商伊波 翔悟だった。彼に憧れた譜久村は甲子園出場と浦添商入学を夢みていく。しかし佐喜眞らボーイズの仲間に皆で甲子園を目指そうと説得される形で、真和志高校へ進学。甲子園出場を夢見ることになる。そこで1年の夏からレギュラーとしてベスト8進出を果たすと、新人中央大会でも4位になり秋のシードを得るなど、「夢」へ向かう階段は順調過ぎるくらいだった。


【帽子のつばに書いた文字に込められた想い】 沖縄県立真和志高校野球部三年・譜久村 誠悟投手

【絆】

 
ところが高校2年生の夏、一回戦敗退するなど歯車が狂い始めてくる。マウンドに立つ責任感が大きくなり過ぎ、力みとなって空回りしていた。宙ぶらりんの思いを抱えたままの譜久村に対し、既にチームは新人中央大会へ向けて走り出していた。譜久村はエースとして再びマウンドへ上り、真和志を2年連続で4位に導いた。だがその裏で、彼の消化不良のままの気持ちは、どんどんと膨らんでいった。
 
秋の大会前、野球を辞めると決めた譜久村はグランドに数週間顔を出さずにいた。そんな彼を引き戻したのが仲間たちだった。「お前がいないと勝てない」「一緒に続けよう」。頑なになっていた彼の心を開いたのは、暖かい仲間の言葉だった。「野球は自分一人でやるものじゃない」。チームとの信頼関係や仲間との絆に気付かされた。以降、譜久村の帽子の裏に”絆”の文字が埋め込まれていくこととなる。

【躍進】

 

そして迎えた春季大会では、初戦から3試合連続完封という離れ業をやってのけるなど大活躍。真和志高校野球部創立以来初となる決勝進出を果たす。だが、僅か1点差で敗れて優勝には届かなかった。

 
小学校で野球を始めたときに学んだ「皆に感謝」の4文字。中学時代をともにした仲間たちと、一緒に甲子園を目指そうという「夢」。そして、野球から離れかけた自分を引き留め、心を開いてくれた仲間との「絆」。
 
それらの思いを文字にして記し、エースとしてマウンドを守ってきた譜久村の帽子に、高校野球最後のシーズンとなる3年生の夏を前に新たな文字が書き記された。それは、「躍進」。
 
厚い「絆」で結ばれた仲間と、「感謝」すべき支えてくれている人たちと共に、「夢」である甲子園へ向けて、彼は「躍進」を誓った。

県立真和志 譜久村 誠悟投手

【無心で投げた最後の試合】

 
第3シードとして順調に勝ち進んだ真和志準決勝の相手は、沖縄尚学。この戦いが最大の山場だと思っていた譜久村は、無心で投げ続けた。6回に連打を浴び逆転を許したが、土壇場の9回、これまで様々な助言を授けてくれた女房役である佐喜眞が起死回生の同点タイムリーを放つ。必死でマウンドを守る譜久村。だが10回裏、エラーの走者を二塁に置いて、沖縄尚学4番・柴引にセカンドの頭を越えるサヨナラ打を許し試合終了。高校野球の幕が下ろされた。

 

試合後、サヨナラの走者として生還した沖縄尚学・諸見里の手を握った譜久村。それは零れた夢を、好敵手へ託すようなバトンにも見えた。力では負けていない、でも何かが足りなかった。譜久村はそう振り返る。

「僕にとって野球こそが全て。その僕を支えてくれた周りの人たちや、夢を追い掛けた仲間たちへの感謝を忘れずに次のステージへ旅立ちます」

 

足りなかった何かを探す旅とともに彼の夢はまだまだ続く。帽子に記された4つの言葉を胸に刻みながら。

(文・當山 雅通

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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