Column

筑波大野球部 科学サポート班「SSD(scientific support department)」

2013.11.11

筑波大野球部 科学サポート班「SSD(scientific support department)」

 強豪・東海大学や、6月の全日本大学野球選手権でベスト4に入った日本体育大学などと首都大学リーグで優勝を争う筑波大学にあって、科学サポート班「SSD(scientific support department)」は欠かすことはできない。その体制、データ分析能力は大学球界随一と言えるほどで、川村卓監督、選手からの信頼が厚いだけでなく、対戦相手にも意識させる存在となっているのだ。データや映像を効果的に使うことの重要性をSSDのメンバーが解説する。

データ収集の体制

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筑波大学野球部 久保洋介さん(4年生)

 まずはSSDが試合で行うデータ収集について聞いた。

 久保洋介「自分たちが試合中に行っているのは専用のシート(写真)への記録の書き込みと、映像の撮影。それからパソコンへのデータの打ち込みです。先輩が作ってくれた専用ソフトがあるので、それでデータを整理します。SSDは4人いますが、3人体制でキャッチャー後方のバックネット裏の席で試合を見るのが基本です。
 まずシートの説明ですが、配球チャートはゾーンを縦5×横5の25分割にしています。そこに実際に投じられた球の球種を、『○』や『△』『□』で分類するだけでなく、色分けもして見やすくし、何球目かの数字とともに記入していきます。数字の横の『F』はファウルです。球速は右側の欄につけていきます。

 また、ゾーンには1番上の1番左を1番として、そこから横に順番に2番、3番、4番、5番、1つ下の段の1番左が6番で、また横に7番、8番・・・と番号を振っています。ですから、ストライクは7、8、9、12、13、14、17、18、19番になります。その数字を使ってキャッチャーが構えた場所も記入しています。例えば左バッターの外角低めに構えたのなら『17』ですね。『作戦』のところにはセーフティバントやヒットエンドランであったりを書いていきます。真ん中にあるグラウンドの簡略図の実線はファウルも含めた打球の飛んだ方向を示しています。点線はゴロです。紙の良いところはどんどん 書き留められることなので、気づいたことは何でも残しておくようにしています」

筑波大学野球部 小崎恵生さん(4年生)

 小崎恵生「他にも、監督さんから打球の質が大事だと言われています。同じフライでも打者がしっかりとらえた打球と、詰まった打球、タイミングを外されて当てただけでは全然、違いますから、A、B、Cで分けています。あとは、けん制なら種類や速さ、いつ、何回行ったのか。ピッチャーがキャッチャーのサインに首を振った回数なども情報として拾っていきます。それからゲームの中で、例えばエラーが起きた、ピッチャーがキャッチャーのサインに首を振った、けん制をした、タイムリーヒットを打たれたとか、そういう何かが起きた後のプレーにも対象の特徴や癖が出やすいですね。そこは常に意識して見ています。高校生はトーナメント戦ですが、その視線を持っているか、持っていないかで結構、違ってくると思います」。

[page_break:どのように監督、選手に伝えられるか?]

どのように監督、選手に伝えられるか?

筑波大学野球部 見邨康平さん(3年生)

 細かいことにも目を配りながら集められたデータはどのように川村監督、選手に伝えられるのだろうか。

見邨康平 「シートに関しては試合後に監督、選手に渡すようにしています。それによって各々がすぐに確認作業ができます」

久保 「バッターの反応で多いのが、自分が打ったコースはこんなところだったのかということ。自分たちが後ろから見てジャッジしたのと、バッターが打席で判断したコースにズレがある。あのときのストライクは入っていたかとか、あれはアウトコースの厳しい球だったとか、あれは甘い球だったとか、そのギャップをすり合わせたりもします」

見邨 「データを蓄積して、統計を出すというのは次の作業になります。パソコンでは打球方向や、このピッチャーがどういうコースに、どの球種を何%投げているか。調べて、調べて、じゃあ、どの球を狙っていくかであるとか、そういうことは手助けできていると思います」

久保 「選手の不安を消してあげるのも大きなことだと考えています。相手をまったく知らないで試合に臨むより、少しだけでも知っていれば気持ち的に優位に立てるのかなと思います。その部分では筑波大学は他のチームには負けないと思っています」

小崎 「他の大学のことはわかりませんけど、自分たちは4人いて、それぞれがフォームのことを中心にやっていたり、野手だったり、ピッチャーだったり、分担があります。でも、他の大学は1人とか2人で、それら全部をやっている感じに見えるので、そういう面では細かくはできているのかなと思います」

筑波大学野球部 川村卓監督

 川村監督も「データというのは出すだけ全部出して、その中から何か使えるものがないかと探すような作業なので、ほとんど無駄になってしまうんです。100集めて5くらいしか使えない。SSDの学生には『苦労をかけるけど、その中で洗い出した相手の傾向などが我々にとってはすごくプラスになることだから』と話しています」と、SSDの働きはチームの大きな力になっていると感謝の言葉を惜しまない。

 実際、これまでSSDからの提案を採用したことはたくさんある。例えばスライダーでストライクを取った後の球種に顕著な傾向が出ているバッテリーをあぶりだしたこともあれば、あるピッチャーはボールの外れ方によって次の傾向があることに気づいて、試合で攻略できたこともあった。

[page_break:データの活用は自チームの見直しにも効力を発揮する!]

データの活用は自チームの見直しにも効力を発揮する!

 また、データの活用というと、つい「対相手」を連想しがちだが、自チームの見直しにも効力を発揮するのだという。それこそ、同じ相手と戦うことの少ない高校生が取り入れるべきかもしれない。

久保 「リーグ戦のすべてのデータをつけているのですが、終わった後には『反省ミーティング』というのをやります。個人だけでなく、チームとして何がいけなかったのか、今後どうしていけばいいのかを分析し、それを踏まえて練習に取り組んだ結果、成績向上に繋がったこともあります。例えば去年の春は順位が5位で、打撃成績もリーグ下位だったんですけど、みんな初球が振れていなかったんです。そこで学生コーチのトップであるヘッドコーチにこういう数字が出ていると話して、初球から思い切って振っていく方針を打ち出して練習も一緒に考えました。結果、秋は順位こそ3位でしたが打率はすごく上がりました。
 高校生でもできて簡単なのはバックネット後方から誰かに試合を見てチャートをつけてもらう。そういったものを蓄積していくことで、バッターなら苦手なコース、打てないコースの傾向などが出てくると思います。自分自身の頭の中と意外にズレていることがあると思います」

見邨 「ピッチャーでしたら、変化球とストレートの球速差がないであるとか、意外と決め球がストライクになっていないとか。そういう良いところ、悪いところを選手にフィードバックしてあげて、この前はこうだったから、こういうところを伸ばしていこうということを相談しながら練習することもよくあります。映像は溜めていって、以前のものと比べたりすることによって調子とフォームの関係について話をしたりします」

 試合の勝敗を左右するだけに、責任の大きさも感じている。それだけに努力は怠れない。リーグ戦の全データのセル数は1万を超え、その中から必要なデータをピックアップし、ケースごとに分けたり、客観的+主観的なデータを出すとなればかなりの時間がかかるため夜中までデータ整理、分析に時間を費やすこともある。プロ野球のスコアラーがどういうデータの使い方をしているのか、関連本や雑誌に目を通すようにもしている。
 また、自チームが試合のない週であってもSSDは他大学の試合のデータを取りにいかなければならない。しかし、チーム内でもっとも多く試合を見ているだけに、試合を見る目は確実に養われたという。

小崎 「今までとは見方が変わったという実感はあります。自分はピッチャーだったんですけど、偵察を始めるようになって特に意識しているのがネクストバッターです。マウンドで投げているときはネクストバッターを見る余裕なんて持てなかったんですけど、ネクストバッターズサークルで素振りをしているところに癖が出ていたりするんです。それで、こんなバッターだなというイメージが自分の中で描けるようになりました。マウンドで投げていて、バッターに集中しなくていいときにフッとネクストバッターズサークルを見て、次のバッターのイメージもしながらやれたら良かったかなと思ったりはします」

 選手を見る目も培われた。
久保 「SSDになってから自分以外のいろいろな選手の映像を見て、比べることもするようになったのですが、良い選手と悪い選手の違いもわかるようになりました。そういう意味では選手時代にもっと視野を広げて、いろいろな選手の映像を見るとか、自分と何が違うかをもっと考えれば良かったですね」

見邨 「そうですね。映像でフォームについて勉強して、選手時代より自分自身の投球フォームが綺麗になりました。もう1回、選手をすれば、どれだけのことができるんだろう、面白そうだなというふうに感じるときもあります。ですから高校生のみなさんにも、少しでもデータや映像に目を向けることは決して無駄にはならないと思います」

 分析までできなくてもチームの中で班を作って、ローテーションを組んで練習試合の映像撮影やデータをつけ、全員でディスカッションするのも1つの良案ではないだろうか。そこには新しい可能性が詰まっているはずだ。

 

(文=鷲崎 文彦

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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