セガサミー(後編) 「プロ仕込みの走塁技術を徹底解説!」
前編では、セガサミーコーチの元プロ・前田 忠節コーチから、『走塁には大きな勇気が必要、ただしっかりとした裏付けがなければ、暴走になってしまう。好走をしていくための材料を求めていくことが重要』だという話しを伺いましたが、後編では、江藤選手が実際にリードの取り方、スライディング方法を披露し、さらに、前田コーチの分かりやすい解説も添えてお届けします!
次の塁を狙うためのファーストステップ
プロ仕込みの走塁がセガサミーにもたらされたことでチームは変わった。江藤主将がその変化を説明する。
「去年までも走塁は意識していましたけど、走るメンバーは決まっていました。でも今はチーム全体で走塁意識が高まっています」
江藤選手自身、昨シーズンより今シーズンの方が盗塁数は増えたという。
「僕は3番バッターなので、出塁した時は次の4番が打ちやすい状況を作るように心がけています。なるべく走るそぶりを見せることで、球種をストレート系に絞らせ、バッターに狙いをしぼりやすくさせるんです」
セガサミーでは「出塁したらすぐ次の塁を狙うよう切り替える」(前田コーチ)べく、常日頃から走塁意識の向上を心がけている。その先には、江藤選手の言葉のように、走塁を打順や役割によって利用法を変える応用形にいきつく。ただ、そこに至る前にまず第一歩。ここで、セガサミーが取り組んでいる走塁法の一部分を写真とともに見てみることで、気づきのヒントにしてもらいたい。
1.セーフティリードを確保する(写真1)
(写真1)
「リードに関してはセーフティリードを知った上で、後は牽制をもらって判断します。強い牽制が来ても余裕で戻れる場合は、そこに止まるのでなく半歩でも1歩でも出ることを勧めています」(前田コーチ)
(写真1)を見ると江藤選手のセーフティリードの取り方はいつも一定している。写真を撮る際もまずベースを踏んで進塁方向に大股気味に3歩、その後ピッチャー方向を向いて1歩半。必ず同じリズムでリードをとる。距離は東京ドームの一塁上の場合、ちょうど両足の間にアンツーカーと人工芝の境目がくるぐらい。ここを起点にピッチャーとの駆け引きに臨む。
さらに「右手から帰塁する際にまっすぐファーストベースに手が伸びるように」立ち位置は一塁と二塁の直線上からやや後ろ(写真左)、「一歩目となる左足を二塁方向へまっすぐ出せるように」右足はやや後ろに引く(写真右)
ベース近くへスライディングはセーフの確率が高まりやすい
(写真4)
(写真5)
「ショートでプレーしていた経験上、ランナーがベースから離れた位置でなく、より近くからスライディングするとタイミングはアウトでも審判はセーフと判断する確率は高いんです」
もうひとつ、スライディングのポイントは足の甲を上に向けず、足の外側を上に向ける(写真5)。「イメージとしては横蹴りするような形でベースに足を出すんです。するとスライディング時に鋭さが増します」
脚の付け根にある股関節は「球関節」といって回転する構造になっている。つまり、走る時は厳密にいうと両脚を縦に出すのではなく「回旋」させながら進んでいる。この構造に沿うと、脚を真っ直ぐ出すスライディング=足の甲が上に向く形は、じつは不自然なのだ。
(写真6)
3.塁を周る時はうしろを見る(写真6)
「これは大石 大二郎さん(元オリックス監督)から聞いた方法なのですが、全速力で塁を周る際、どうしても遠心力が働いて膨らんでしまいますよね。
その遠心力を制御してかつスピードを落とさないためには、塁を踏む際に少し体を倒すのがベストだと。ちょうど顔を後ろに向けるとそのバランスが整います」(前田コーチ)
これは高難度。ただし、意識してやってみれば、スピードを落とさず遠心力を制御できる感覚を得られるかもしれない。
「難しいのは、顔を後ろに向けつつコーチャーの指示も確認しなければならないことです。後ろを向いて回りつつ横目でコーチャーを見る(笑)。これは難しいかもしれません」
判断の素となる材料集め
前田コーチの指導により昨年に比べ盗塁数が増えた
江藤圭樹主将は3番打者として鍵を握る存在に
今回取り上げた例はほんの一部にすぎない。こういった動きを当たり前のようにできるようになって、最終的に求められるのが「判断力」になる。その重みを前田コーチが語る。
「走塁において、判断力は本当に重要です。盗塁よりも塁上での判断は、打球が加わるぶん、難しくなります。そこで先ほど話した好走にするためには、『材料』集めがより重要になります」
「どのチームも当たり前にやってることだと思いますが」とはいうが、その材料集めの素を2つ紹介する。
1.試合前のキャッチボール、シートノックを観察
「当然ビデオがあればいいですけど、外野手を撮ることはあまりないと思います。そういう時は試合前のキャッチボールとシートノックを観察する。特に外野手の守備力と肩はよく見ます。肩やコントロール、焦ったときの送球など。強肩の選手でも、その日に限って痛めている可能性もありますから」(前田コーチ)
練習で焦る選手が、本番で上手くいく可能性は低い。そういった情報を試合前にいかに得ておくか。もちろんそのためには正確に分析する“眼”が必要になる。練習試合などから意識して見続け、養っておくことが重要だ。
2.普段の練習から味方選手の特徴をつかむ
走塁はなにも相手の動きだけがすべてではない。打球が前に飛んで走る、ということは、バッターの特徴も把握しておくことが必要になる。
「普段のバッティング練習でも塁上にランナーを置いています。それは打球判断を向上させると同時に、味方選手の特徴を知ってもらうためです。この選手ならあっちの方向に打球が飛ぶ時は長打もある。逆にこっちの方向なら単打になるとか。『試合を意識して練習をしろ』とはよく言われることですが、たとえば打球ひとつに対しても意識次第で試合に役立つ情報が得られるんです」
練習時からのこういった意識づけが、ひいては前述した江藤選手の「次打者へのアシストとして走塁を用いる」といった考えかたにも結びつくのだ。
[page_break:「最後の土壇場」がスタート地点になる]「最後の土壇場」がスタート地点になる
前田忠節コーチ
走塁に関して「これが正解」という方程式はない。好走と暴走は紙一重。その評価が分かれるのは結局、アウトかセーフかという結果に委ねられる。できることは、セーフという結果を得られるであろう裏付け=材料をいかに集められるかというところまでだ。そして材料集めは詰まるところ、普段の練習にまでさかのぼる。
前田コーチは高校球児に次のようなアドバイスをくれた。
「練習時から試合のいろんな状況を頭に思い描くことです。9回二死一、二塁で自分がランナーだと設定して緊張を自身に課す。すると、セーフになるために自分がなにをすべきかわかってくるはずです」
江藤選手は自身の経験を踏まえて語ってくれた。
「高校時代はそんなに走塁練習に重点を置いていませんでした。やってもベースランニングぐらい。スライディングの方法も知らなかった。当時と比べると足が速くなったというより、どうしても1点が欲しい場面でホームに生還できる精度が上がったと思います。
結局練習からなんです。その際、考えていなければ絶対スタートの1歩目は遅くなる。考えて動かなければクロスプレーになった時セーフにはなれない。1点取れるか取れないか、は重要じゃないですか。その重要性を知れば、練習から走塁の取り組み方が変わってくるはずです」
不確実性がつきまとう走塁を「考えてもしょうがない」と思うのか「少しでも考えよう」ととらえるのか。直接的ではないにしろ、その差が出るのがセガサミーが東京の第3代表決定戦で見せたような土壇場の勝負所だとしたら……。決してないがしろにはできないはずだ。
(取材・文/伊藤 亮)