阿部 智弘選手 (磐田東)

寸評

　磐田東を決勝進出の原動力となったのがエースの阿部 智弘だ。左サイドから切れ込む切れ味鋭い速球を武器に静岡大会決勝まで31回三分の２を無失点に抑えた阿部投手の投球を振り返ってみたい。 （投球スタイル） 左サイドハンドから投げ込む直球は常時130キロ前後は出ているだろう。スピードは平均的だが、キレのあるストレートで球速表示以上を感じさせる。そのストレートを両サイドへきっちりと投げ込む制球力は光っている。変化球はスライダー、スクリュー、カーブ、チェンジアップ。大きく変化させるわけではなく、手元で小さく変化させてバットの芯を外す狙いといえる。 出所の見難い投球フォームから両サイドへ投げ分ける投球スタイル。非常に実戦的で打ち辛さを感じる。ただボールが抜けることが多く、高めに浮いて打たれることも少なくない。右打者には両サイドへストレートを投げ分けていきながら外角にはスクリュー、内角にはスライダーを投げていく。左打者には外角中心にストレート、スライダーを投げ込む。甘い球は少なく、高校生レベルでは打ち崩すのはかなり難しい投手。テンポの良さも光っており、見ていてだるさを感じない好投手である。 　クイックは1.2秒～1.4秒前後と平均的なタイム。ランナーの目配りができており、牽制は上手い。フィールディングの動きは悪くない。 （投球フォーム） 左足を一塁側のプレートに置いて、右足を引いたセットポジション。右足を勢いよく上げていき、左足をバランスよく上げていく。体を沈み込ませていき、ややインステップ気味に着地する。軸足にしっかりと体重を乗せていき、その間に柔軟に接地する。右腕のグラブを斜めに伸ばしていき、開きを押さえていく。軸足のスパイクをしっかりと押さえ付けて、そこから強く蹴りだしていく。腕の振りはシャープで肘が立っているフォームで、コントロールが付けやすく、多数の変化球を投げやすいフォームをしている。蹴り上げの力をうまく使い、滑らかな体重移動ができている。溜めが効いて、開きを抑えており、尚且つ体重移動がスムーズで、左サイドハンドのお手本のようなフォーム。下手な筋トレをせずに体のバネと下半身の強さを活かすことができれば球速も伸びていくだろう。

将来の可能性

　打ち難さを追求した左のサイドハンド。投球の型は出来上がっており、マウンド上の落ち着きぶりは素晴らしい。静岡県らしい凄みこそ感じないが、洗練された実戦派投手である。大学でも続けていけるレベルにあり、あとは大人の体になったときに体の大きさに反映して投手としての器が大きくなっていくと大学レベルでも十分に活躍していける素地はある。 　東海地区の大学で続けていくと思われるが、将来的には中央球界の左打者をきりきり舞いさせる日々も実現するかもしれない。そうなってくれることを大いに期待している。