2010年07月22日 青森市営球場

八戸工大一vs青森工

2010年夏の大会 第92回青森大会 準決勝
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八戸工大一のカバーリング

花巻東の残したもの

驚いた。
春の東北大会で八戸工大一を見たときのことだ。

数年前に見たときとは、明らかにカバーリングの意識が変わっていた。捕手から投手に返球されるときには、セカンド、ショートが1球1球後ろに入り、構えの姿勢をつくる。それだけではない。それに合わせて、センターまでもが前に来て、構えをとっていた。セカンド、ショートがカバーに行くのは珍しくないが、センターまでやるのは見たことがない。それだけで意識がうかがえた。ちなみに、一塁けん制球のときも、セカンド、ライト、センター、レフトに加えて、捕手までも一塁側に毎回動く。万が一どころではない。億が一ぐらいまでの徹底したカバーリングだ。

試合後、長谷川菊雄監督にカバーについて聞くと、「一番こだわっているところなので、そこを見てもらえるのはうれしいです」と笑顔だった。

では、なぜここまでのカバーリングをするようになったのか。
それは、昨年の花巻東の活躍の影響が大きい。

カバーリング、一塁ベースを過ぎて芝生まで駆け抜ける全力疾走、声と拍手が途切れないベンチ……。花巻東の取り組みは甲子園のファンを味方につけた。それが力となり、夏の長崎日大戦、明豊戦など終盤の逆転劇を呼び込んだ。取り組む姿勢、姿の大切さを全国に伝え、響かせることになった。
長谷川監督もそれに感動し、共感した一人。すぐに佐々木洋監督のもとを訪れ、教えを請うた。冬場は雪の上で1日カバーリング練習だけの日を設定。最初は戸惑っていた選手たちに、徹底してカバーリングの動きを覚えこませた。

ライト、センターなどカバーで走る距離の長いポジションを守る野藤龍は言う。
「最初はここまでやっても来ないんじゃないかという気持ちがありました。でも、来ないかもしれないけど、(捕手の返球で)センターまでカバーに行っておけば、万が一エラーしても大丈夫。(他の送球を含め)後ろにいると思えば安心して投げられる。守備力の向上にもなると思います。それに、他の学校はそこまで徹底していない。そういうところを徹底しようとやってきました。ウチのチームは徹底力でやってきているので」
野藤の言葉は、いつも長谷川監督が選手に言っていること。選手の口からこういうコメントが聞けるぐらい、八戸工大一にカバーリングの意識は浸透している。
だが、長谷川監督も選手たちも、まだまだ満足していない。今年春には花巻東と練習試合をしたが、実際に“本家”を見た印象はこうだったからだ。
「見たときは正直、びっくりしました。(カバーリングで)こんなところにいるんだというのもあったので。でも、そういうことをやっているからこそ、甲子園でも少ない点数で抑えられるんだなと思いました。それと、自分たちは全力疾走も徹底しているんですけど、花巻東はやっぱりすごかったです」
甲子園で勝つためには、相手がびっくりするほどやらなければいけない。それを実感した。だからこそ、まだまだ上を求めて徹底していく。

今年は青森でも気温35度近い猛暑。カバーリングや全力疾走で走る分、体力を消耗するが、その準備もしている。冬場はもちろん、シーズン中も毎日約10キロの丸太を持ってダッシュを繰り返し、体力強化を怠らなかったからだ。通常はホームベースからレフトポールまでを10本だが、大会中は決勝までの6試合にこだわり、試合前に初戦は6本、2戦目は5本、3戦目は4本……と徐々に減らしながら継続している。
「暑くても大丈夫です。いくら走っても疲れません」(野藤)
言葉通り、準決勝でも、選手たちは元気よくカバーリングに走っていた。

青森県では、八戸工大一だけではなく、弘前学院聖愛光星学院もカバーリングの意識が高い。その3校まではいかないが、青森山田も全国的に見て意識は高い方だ。花巻東が県内の選手たちばかりでなぜ全国で勝てたのか。それは、トイレ掃除なども含めた技術以外の取り組む姿勢にこだわってきたから。そこに目を向けたことで、青森県の野球が変わってきた。昨秋東北大会ベスト4の弘前学院聖愛、そして今春東北大会ベスト4の八戸工大一。いいチームが結果を残せば、それをマネて、いいチームが増える。まさに好循環。この日、花巻東は敗退したが、昨年のチームが残したものは大きい。これから先、東北地区が、青森県が、そして八戸工大一がどう変わっていくのか。“徹底力”でどんな結果を残してくれるのか。大いに注目していきたい。

(文=田尻 賢誉




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